恵那山トンネルを抜けると、 伊那谷が広がる。中央アルプスと南アルプス の高い山脈にはさまれた地形だが、広々として遠くまで見通せるので開放感 があり、さわやかな土地柄である。気温も名古屋に比べたら かなり涼しく感じる、ほんと「さわやか信州」ですね。
飯田はりんごの産地として 有名で、道端にもりんごの木がたくさんみられる。 12:50、ちょっと遅れてバスは飯田駅へ。赤い屋根が印象的な新しい駅舎だ。12:53の天竜峡行き列車 に乗りたいので、非常にあわただしく切符を買い、スタンプを押す。スタンプ の状態が良くなく、なかなかうまく押せないのであせっているうちに、列車 がホームに入ってきてしまった。あわてて飛び乗る。

天竜峡の駅に降り立ち、踏み切りで線路を渡ると、すぐに天竜川 をまたぐ橋の上に出る。深い渓谷になっていて、迫力がある。両側に 天竜峡温泉の 宿が張り付く様に立っており、川岸には 川下りの船が 並んでいる。スタンプのデザインも、川下りである。

10年くらい前、私はこの川下りの船に乗ったことがある。 今日と同じような夏の日、同じように飯田までバスできて、 川下りを楽しみ、その後は天竜峡駅から豊橋まで、延々と 飯田線に乗って帰ったっけ。豊橋まで遠かったなあ。 飯田線は全線普通列車で乗ると、７時間もかかるのである。 今日は船には乗らず、豊橋にも行かず、飯田線で引き返す ことにする。14:10、普通列車岡谷行きに乗る。

駒ヶ根は、 中央アルプスの 駒ヶ根ロープウエイ観光の起点となる駅である。標高2000mを 越える山の上まで一気にあがれる。夏はすずしいので、大変人気が あるようだ。私も昔、友人と一度ロープウエイに乗ったことがあるが、 5月のことだったので山の上は残雪ばかり。まったく冬のような 風景だった。そのときは車で、飯田線は使わなかったなあ。 駅のスタンプのデザインは、駒ヶ根ロープウエイである。

この駅は初めてだったので、少し駅前を散策する。駒ヶ根銀座 というアーケードがあったが、そんなに大きな商店街ではなかった。 国道153号線沿いにある 駒ヶ根バスターミナルまで行ってみる。ここから 名古屋をはじめ、新宿や長野への高速バスに乗ることができる。 今日どうやって帰ろうかと思って時刻表を眺めたが、名古屋に 帰る便は早い時間で終わってしまい、使えそうにない様なので、 あきらめて駅に戻る。

列車が伊那市駅 のホームに入ったとき、スタンプがホームに設置して あることを発見。「しめた！」と思い、停車と同時にすぐに降り、 すばやく押して、列車に再び乗ることができた。こういう事は、 他のお客さんの迷惑になるし、「押し鉄」の評判を落として しまうかも知れないので、お勧めできない。
伊那市駅のスタンプデザインは、 伊那節、 ホームにある水車と、隣町の 高遠城址 公園の風景。高遠は桜の名所として有名だ。 私は１０年ほど前、中央本線・茅野駅から自転車で、杖突峠を越えて高遠を訪づれ、 この伊那市駅まで走ったことがある。それで伊那市駅に来たこと があるし、伊那市以北の飯田線は乗車したことがあった。 今回これで未乗車区間がなくなり、飯田線完全乗車も達成できた。

列車はさらに進み、伊那松島へ。こちらは時刻表から、４分ほどの 停車時間があることがわかっていたので、下車してすぐに、改札で 駅員さんにスタンプを出して押させてもらう。伊那市までしか切符を 購入していなかったので、清算して、あらためて岡谷までの切符を 買った。行き違いの列車の待ち合わせで、さらに数分止まるという アナウンスがあったので、駅前に出て、駅を眺める時間もあった。 余裕で列車に戻る。

伊那松島駅は、箕輪町 の玄関口。スタンプのデザインは、 萱野高原の水芭蕉。

さて、伊那市・伊那松島の駅で列車を下車せずにスタンプ を押すことができたため、このままこの列車に乗れば岡谷 駅に17:29に着く。それなら塩尻発17:51のしなの22号に 乗り、19:46には名古屋に着くので、これなら早く帰れそうだ。 私は非常に安心して、辰野・岡谷と進む列車の中で少し うたた寝をした。

18:06、中央本線松本行きの列車に乗り、 塩尻 下車。少し時間があるが、ホームで特急しなの24号を待つ。
ここで、とんでもないアクシデント。
ホームのアナウンスが流れ、ホームで待っている 客がいっせいに耳を傾け、憤慨し始める。

このあたりでは雨なんか一粒も降ってないのに！ 早く帰りたかったのに、こりゃだめである。状況からして １時間は列車が遅れることが予想される。塩尻駅の 改札を出て、観光案内所のパンフレットに書いてある駅前 ビジネスホテルの電話番号へかけてみる。空いているよう なので泊まることにした。ホテルで１時間ほど休んでから 駅前に行ってみると、まだ列車は来ていない。結局1時間 半ぐらいの遅れだったようだ。あんまり遅い時間に帰って 疲れても明日の仕事に差し支えるし、泊まってよかったようだ。
　翌8月9日朝一番、7:16のしなの２号に乗り、名古屋 に帰った。月曜日なので会社に少し遅れると連絡、 結局出社は9:30頃になってしまい、周りに迷惑をかけてしまった。 いちおう会社はフレックスタイム制なので、遅刻ではないのです けれどね。

収集を終えて

最後にちょっとアクシデントがあったが、こうしてJR東海・名古屋地区 52駅のスタンプを、取り組み始めてから２ヶ月半ぐらいですべて収集 することができた。私にとっては昔旅した場所の再訪である場合が 多く、懐かしさを感じての旅が多かった。

もし今回集めたスタンプが、皆に押されて古くなり、また１０年後 ぐらいに、もう一度新しく設置されるようなことになったら、また 旅してみたいものだ。きっとそのときも楽しいだろう。 「昔、小さかった息子とこの川で泳いだよな」なんて懐かしむに 違いない。それもまた良いではないか。
「押し鉄の旅」は、そんな永遠の旅かもしれないな、と思った。(了）