いや、まったくこれまで、沖縄に鉄道が無かったわけではない。 戦前には、那覇から嘉手納、与那原、糸満への路線を持った、沖縄県営鉄道があった。 だが、太平洋戦争の沖縄戦で壊滅し、再開されることがなかったのだ。

以来バスしかなかったが、那覇の人口は100万人を超え、通勤通学のバスの混雑に、 さすがに鉄道が必要だ、という声が高まった。那覇空港から首里まで、曲がりくねり勾配のあるルートには、 これが良い、ということで、モノレールが採用されたのだろう。 今は朝夕とても混雑する、那覇にはなくてはならない乗り物になった。

首里より先は、列車運行本数が少なくなる。9:45発のゆいレールに乗ると、 新しくてしっかりしているレールを進み、 9:48、石嶺駅に到着。駅舎はガラス張りで大きく、延伸区間では作りがグレードアップされたようだ。

リアルスタンプとデジタルスタンプのエキタグを、セットで押して行く。 スタンプの図柄は、旗頭とエイサーである。エイサーは、牧志駅のスタンプにも描かれていた。 お盆に先祖の霊を送るために踊られる、賑やかな踊りだ。 旗頭は、 地域のシンボルとして作られる、 大きな旗である。那覇大綱曳きには、各地域の旗頭が並び立ち、壮観だそうだ。

スタンプは、初めて横長のスタイルである。描かれているのは、冊封使の歓迎の宴席で披露された、 組踊の一つ、「二童敵討」 の一場面である。駅のステンドグラスには、同じ図柄が、大きく色鮮やかに描かれていた。

10:17発の、ゆいレールに乗る。次の浦添前田駅は、最後に訪問したいので、 そのままその先の終点、てだご浦西駅まで乗っていく。線路は下に下がっていき、 トンネルの中に入り、そこを抜けると終点であった。10:12着。 スタンプを取得、この複雑な図柄は、駅の天井にある大きなステンドグラスと同じだ。 太陽や空、海など、沢山のものが描き込まれている。

とても大きな駅である。改札の外に出てみると、広い敷地があるが、 これはパークアンドライドの駐車場である。もっとこの先に住む人が、車をこの駅前の駐車場に置き、 ゆいレールで那覇の街へ出ることができるようにと、作られた。この方法で、中心市街地の混雑を緩和し、 鉄道を利用しやすくするというやり方は、全国各地に広がりつつある。

10:24発の那覇空港行きに乗り、一駅引き返し、浦添前田駅へ10:27着。 スタンプはここも横長で、右側に太陽、左上に浦添城跡、手前で棒術の訓練をする、 琉球王府に仕える侍（サムレー）たちが描かれている。小雨が降り出してしまったが、 傘をさして、浦添の古城を訪問してみよう。

少し歩いたところに、浦添大公園南エントランスという入口があり、城跡へ行く事が出来る。 登坂の途中は一部石畳になっている。浦添と首里を結んでいた古道だそうだ。眼前には、 最近発掘された、幅の広い石垣が見えている。 沖縄の城は、グスクと呼ばれる。ここは相当堅固なグスクであったようだ。

だが英祖王は、実在の人物と思われる。浦添城を治めていた舜天王統の王、義本に仕えていたが、 摂政となり大いに善政をした。やがて義本王に信頼され、1259年、禅譲を受けて次の王になった。 英祖王は天孫氏の血を引いていたと言われる。「太陽の子」という呼び名は、それを意味していたのかもしれない。 彼の善政は1299年まで40年続き、薨去後、浦添城麓の「ようどれ」という墓所に葬られた。ようどれは「極楽山」という意味である。

浦添城が本拠の「中山国」は、琉球全土を統一した尚巴志王によって滅ぼされ、首都は琉球へと移った。 だがその後も、浦添城は王の一族が按司として治めた。第二尚氏７代の 尚寧王 は分家の出身で、浦添生まれの浦添按司であった。前王の血筋が絶えたため、琉球王を継承した。 ところが尚寧王治世の1609年に、薩摩の島津氏が琉球に侵攻してきた。 薩摩の狙いは貿易で栄えていた琉球の富を奪い、戦国時代に疲弊した島津氏の財政を立て直すことであった。 ひどい話である。

だが歴史は、二人の王が安らかに眠ることさえ許さなかった。明治、琉球処分によって王国は消滅、沖縄県となる。 その後の富国強兵、海外侵攻、諸外国との対立の末に起こった太平洋戦争で、沖縄が戦場となってしまった。 1945年、侵攻してきたアメリカ軍は、日本軍が籠る、前田高地の砦に至る。 彼らはそこをハクソーリッジ（弓鋸尾根)と呼び、総攻撃を掛ける。双方大きな犠牲を出す、沖縄戦最大の激戦となった。 こここそ、浦添の古城であった。

「ようどれ」は、最近になってやっと、元の姿に復元されたという。 沖縄の歴史が交錯したこのグスクは、雨で暗い空も相まって、私にはとても重々しく感じられた。 残念ながら資料館「ようどれ館」は、月曜日の定休日だった。 浦添前田駅まで歩いて戻るのは遠いので、少し坂を下った「仲間」というバス停まで歩くことにした。

周囲の住宅には、いろとりどりの花が植えられて咲いており、とても美しかった。 重々しかった気分が、花を見ていくうち軽くなった。これが南国の、良い所だな。 11:46、仲間バス停からバスに乗った。これで、ゆいレールの、おもろまち駅まで戻れそうだ。 混雑していて少し時間がかかり、12:25、おもろまち駅へ到着。

12:40発のゆいレールに乗り、12:49、県庁前駅で下車する。那覇の街の中心に戻って来た。 今日は朝から、首里城と浦添城を見学し、ゆいレールも回り終えたので、すでに達成感がある。 残る午後の時間は、気ままに那覇の街を回ってみよう。

まずは駅前の、パレット久茂地と言うデパートに入り、お土産物など見て回る。 本当はこの建物の中にある、那覇市歴史博物館を見学したかったのだが、 展示替えのために休館しており、残念だった。 13:24、バスに乗り、13:35、上之蔵というバス停で下車。少し歩いて、 琉球一之宮・波上宮に参拝した。 海に突き出す岩山の崖の上にあり、神々が住む海のかなた、ニライカナイを拝む御嶽であったという。

目の前に巨大な、沖縄県庁の建物が聳えている。そういえば、全国の県庁には、 訪問記念のスタンプがあるというのを思い出した。 いいチャンスなので、押して行こうと思った。広い県庁の一階の受付で聞いてみたら、 ２枚のスタンプを押すことが出来た。なかなか良いな。これをきっかけに、 全国の県庁のスタンプも集めてみるかなと、ちょっとだけ思った。

その奥にある、牧志公設市場。過去の旅でも訪問しており、今回ぜひ再訪したかった場所だ。 那覇市民の台所で、一階は、色とりどりの魚、独特の沖縄の野菜、沖縄料理に欠かせない豚やヤギの肉など、 専門店が並ぶ。二階は、買った魚をさばいてくれて食べることもできる飲食店が並んでいる。 昔に比べるとちょっと綺麗になったと感じるのは、建物が建て替えられたからだが、雰囲気は以前と変わらない。

夕食を食べていっても良い時間だったので、２階のお店で蟹汁付きの海鮮丼を頼んだ。うまいに決まっていた。 昔、ここに来た時の旅の思い出が、蘇って来た。

満腹になり、牧志駅から、16:26のゆいレールに乗って、ホテル最寄りの旭橋駅へ戻った。
（→押印登城記日本200名城・今帰仁城と座喜味城につづく）