やはり、ここで取れるヒスイが描かれている。ヒスイは日本の「国石」であるらしい。 上にとまっているのは、カワセミだろうか。瑠璃色の宝石とも言われる、美しい鳥だ。

これから乗る大糸線は、ヒスイの原石を砕いて日本海に運ぶ急流、姫川に沿って 南に登って行くローカル線だ。ずいぶん久しぶりに乗車する。次の南小谷行きは、13:23らしい。 まずは、きっぷを買っていこう。みどりの窓口に行こうと思ったが、閉まっている。

買いたい切符を伝えると「私もまだ慣れていないのですが、多分買えると思います」と言って、 駅員さんが操作してくれた。 やれやれ、これって、本当に合理化になっているのだろうか。

このあたりは冬は豪雪地帯だし、夏に豪雨があると洪水が起きる。 鉄道も道路も、維持していくのが大変な区間である。 事実、大糸線は豪雨で橋が流されて、何年もの運休を繰り返している。 それでいて、普段乗る人はとても少ない。 いつかは廃線になってしまうのではと、乗るたびに心配になる。

この険しい谷沿いには、千国街道と言って、昔から日本海の塩を内陸に運ぶための「塩の道」が通っていた。 昔の人の知恵か、その道は洪水の多い谷底を避け、山の中を上り下りし峠を越えて続いていた。 物を運ぶのは大変だったが、その方が道を維持できたのである。

今乗っている大糸線の列車は、南小谷駅が終点だ。 南小谷から先は、松本方面へ特急が発着しているので、ここまでくればちょっと安心できる。 14:23着。TrainTrip印も取得してみると、北アルプスの山懐に広がる、栂池自然公園に、 水芭蕉の花が咲く様子が描かれていた。

先ほどの列車に乗ってきた人は、私もそうだが、ほとんどが次の15:00発の、 あずさ46号新宿行きに乗る人だ。堂々とした特急車両が、すでにホームに入線済みだが、 乗車まで時間があるので、しばし駅周辺で休憩している。

エキタグがあったので、こちらも取得してみると、ずっと以前に押しに来た、 長野支社印と同じデザインであった。塩の道を往来した運送業者「牛方」が描かれている。 急勾配の山道で荷物を運ぶ場合、馬よりも牛の方が適しているらしい。 塩の道では、牛が主に使われた。牛を操り荷物を運ぶ人は、牛方と呼ばれた。

駅前に出てみると、すぐそこを姫川が流れている。川幅があり水量が多く、流れが急だ。 ヒスイを砕いて流したり、洪水をおこしたりと、大変な川なのが良くわかる。

停車中に、TrainTrip印を取得する。今日、大糸線で帰ろうと思った一番の理由が、 このスタンプだったので、無事取得できて安心した。 1998年の長野オリンピックの会場になった、白馬ジャンプ競技場が描かれていた。 ノーマルヒルとラージヒル、２本のジャンプ台が並んでいる。舟木選手が最後のジャンプで逆転し、 原田選手が号泣した、あの日本選手団の金メダルのドラマが、蘇ってくる。

オリンピックで名前が知られたのか、今は質の良い雪をもとめて、 インバウンドの外国人スキーヤーが白馬に押し寄せるようになったらしい。

長野オリンピックは国民的な思い出であるが、白馬と言えば私にも、いくつか個人的な思い出がある。 前述の1996年、塩の道を走った自転車仲間のオフに来たときは、この駅まで列車で自転車を運ぶ「輪行」 で来た。その時、駅スタンプを押していたので、印影を紹介しておこう。

それよりもさらに前の1986年の今頃、11月には、友人ＫＫ氏と２人、妙高・戸隠方面から峠を越えて、 この白馬まで自転車で旅をしたことがある。信州の紅葉は、こんなに美しいのかと感動した。 峠の上から見た雪の北アルプスの山々は、神々しかった。その時のスタンプも紹介しておこう。

特急あずさは、行楽を楽しんだお客さんを数十人乗せて、白馬駅を出発した。 次は信濃大町まで止まらないが、その間の車窓は変化に富み、素晴らしい。 仁科三湖と呼ばれる３つの湖が、次々と車窓に見られるのである。

その３つ目の木崎湖が見えてきた。向こう側の山は、カラマツ林なのだろう。 黄色の紅葉が鮮やかである。湖の中にも逆さまに、紅葉の様子が映り込んでいる。 湖の上にはボートが一艘、のんびりと浮かんでいる。あれに乗ったら、気持ちがいいだろうなあ。

３つの湖を過ぎると、線路は峠を越えて、松本へと続く坂を下っていく。
この先は、安曇野と呼ばれる高原地帯である。15:43、信濃大町駅着。

今日、最後に押す大糸線のTrainTrip印が、この駅のものだ。 豪快に放水を行っている、黒部ダムの様子が描かれている。 この大町から、黒部ダムを見学に行く事が出来る。

私も、35年ほど前の学生時代、研究室の旅行で黒部ダムに行ったことがある。 扇沢という駅からトロリーバスに乗り、トンネルの中を進んで、ダムに到達した。 今ではもう、トロリーバスは無くなってしまったので、貴重な体験であった。

1986年の、友人ＫＫ氏との自転車旅では、帰りに安曇野を南下し、この駅にも立ち寄ったので、 その時押したスタンプを紹介しておこう。いわゆる「旅印」であった。

タイトルは「秘境・立山黒部アルペンルート」とある。 私は黒部ダムまでしか行ったことがないが、その先、立山室堂をへて、富山までが、 アルペンルートである。いつか行ってみたいと、長年思っている。 行けるうちに、行かなければ、と思う。

今回は、IRいしかわ鉄道のスタンプを押すために旅に出たが、ついでについでにと、 上越の美味しい海鮮丼や駅弁、続日本100名城、大糸線の思い出巡りと、 いろいろ楽しむことが出来た、良い旅であった。（了）