（→座喜味城の続きです。） 2025年4月30日、沖縄の旅も4日目である。今日は日本100名城・続日本100名城で、残る中城城と勝連城を回りたい。 昨日からの良い天気は続いていて、青空が広がっている。またホテルを朝早く出発して、那覇バスターミナルへとやって来た。 沖縄本島の各地へ向かうバスが、朝早くから次々出発していく。

私が乗ったのは、6:25発、東洋バス30号系統、泡瀬営業所行きだ。 地元の人でないとわかりにくい行き先だが、本島の東海岸を北上し、中城城の麓まで行く事が出来る。 知らない人は読めないだろうから書いておくが、中城城は「ナカグスクジョウ」と読む。バスは、 戦前沖縄県営鉄道が走っていた、与那原までの道を東に走り、左折すると右側車窓に、朝日を浴びた海が広がる。 今日は平日なので、バスは学校に行く高校生が沢山乗っており、賑やかである。 中城村に入り「伊舎堂」というバス停で降りる、7:36。

右手は海、左手は山。山に向かって急な上り坂の道がある。 登るにつれ、中城村の家並の全貌が見渡せ、海の向こうの水平線が丸く見える。 ああ、懐かしい。実は私はこの道を登るのは２回目である。34年前の1991年、初めて沖縄に来た時、 自転車を押してこの坂を登ったのだ。その時も、琉球王国屈指の要塞、中城城を見学するのが目的だった。 あの時若者だった私は、すでに白髪の壮年だ。

今日は中城城の見学の前に、墓参りをしていこうと思う。生涯この城を守り抜いた琉球一の武将、 護佐丸の墓に。 その墓は中城城に隣接した「台グスク」という出城の麓にあるという。ここが入口だと思って登って行くと、 一番上まで登ってしまい、新しい展望台になっていた。ここからは北東が見える。海に横たわる陸地は、与勝半島である。 護佐丸は、尚巴志王の王命により、あの与勝半島の、警戒すべき勢力の城を監視するため、座喜味城からここ、 中城城へ移封されたのである。

1429年、尚巴志王は南山城も我が物とし、ついに統一琉球国の王となった。 しかしながらまだ各地には有力な按司の勢力が残っており、盤石とは言えなかった。 特に警戒が必要だったのが、勝連城であった。 ここの茂知附（モチヅキ）と言う按司は、暴れ者で、しばしば王府の言う事を聞かなかった。 喜界島や奄美諸島、さらには大和の海賊・倭寇までも繋がりがあると言い、 城下の港には大きな船がたびたび来航していた。その軍事力は侮りがたかった。 1430年、尚巴志王は護佐丸を中城城に、 四男・尚布里を江州城に、五男・尚泰久を越来城（ごえくじょう）に入れ、 最大限の警戒態勢を取った。勝連は、琉球王国をひっくり返す恐れがある勢力だったのだ。

それから9年後の1439年、尚巴志王はこの世を去る。 20代だった護佐丸が王に付き従った、北山・今帰仁城の戦いから23年が過ぎていた。 護佐丸は「琉球一の武将」と讃えられる有力者になっていたが、 王が代替わりしても、王国安定のため、この城で勝連勢力を監視する役目を果たしつづけた。 今はこの台グスクの麓に、子孫が建てた立派な墓で眠っている。わかりにくい道を上り下りして、 なんとかその墓に行きついた。威厳のある墓だ。これが沖縄で一番古い亀甲墓であるという。 沖縄ではお祈りをすることを、ウートートーする、と言うらしい。私は沖縄の作法はわからないが、手を合わせていこう。

日本100名城、其の99 中城城 台グスクと道を挟んで、中城城跡が広がっている。入口で入場券を買う。日本100名城のスタンプは、 隣の小さな喫茶店兼土産物屋さんで押すのだが、まだ8:30になったばかりで時間が早過ぎ、開いていない。 城を見学し、ここに戻ってきてから押すことにしよう。 ここは城の北側、目の前には護佐丸が拡張したという、とても高い三の丸の石垣と、 北の郭への入り口のアーチ門が見える。優美な美しさと力強さを兼ね備えている。 この中城城は彼が入城する以前からあった城だが、北側が弱点だと見抜いて拡張したのだ。 流石は、城作りの名手である。

案内の係の人が手招きしている。「これに乗ってください」と、ゴルフ場のカートの様な車に乗せてくれた。 これで坂を上がっていき、反対の南側まで連れて行ってくれた。 この城の正門は、この南側にある。10m以上もあろうかという石垣が聳え、その間を石門で潜り、南の郭へ。 この相方積みの石垣は、護佐丸時代の物だろうか。座喜味城で編み出した先進の石積み法が、この城に生きている。

美しいアーチ門をくぐり、一段高い本丸へ。南側の海や、中城村・北中城村の家並みの広がりが一望である。 護佐丸はここに御殿を構えた。来るべき勝連勢力との戦いに備え、配下の武士たちの鍛錬に余念がなかったことだろう。

二の丸、三の丸と下り、北の郭からアーチ門を潜って、城の外へ。 これで北側に戻って来た。振り返ると「これぞ琉球のグスク」と言いたくなる眺めである。 威厳と風格を備え「攻められるものなら攻めてみよ」と圧倒している。 この城のありようは、若き日私が見た時と変わらない。 行きに閉まっていた、お土産物屋さん兼喫茶店が開いたので、 さっそく日本100名城のスタンプを押させてもらう。 私は、1991年に初めて自転車旅行で沖縄に来た時、この城を見学し、登城済みであった。 が、その時はまだ「日本100名城」というものは無かったので、初めてスタンプを押すわけだ。 実はこれが「最後のスタンプ」なのだ。 日本城郭協会公認のスタンプ帳に、100城すべてのスタンプを押すことが出来た。 ついつい「いやあ、ここが最後なんですよ〜」と、店のお姉さんに話してしまうと、 「わあ〜、それはおめでとうございます」と祝って下さり、大変うれしかった。 このスタンプ帳を日本城郭協会に送ると「貴方は○○番目の日本百名城登城者です」と 認定してくれるらしい。帰ったら是非、認定を受けよう。たぶん、七千何百人目になりそうだ。

御城印や、壮年の護佐丸を描いた武将印も、ついつい購入してしまった。

さて、尚巴志王亡き後の琉球王国だが、後を継いだ３代尚忠王は在位５年で亡くなり、 その子４代尚思達王もまた、在位５年で亡くなってしまう。ために王権は安定せず、 各地に残っていた有力按司には、まだ天下をひっくり返せるかもしれないと、 野心を持つものも少なくなかった。 そんな時、護佐丸が監視していた勝連で、クーデターが起こった。 按司の茂知附が、暗殺されたのである。

手を下したのは、まだ20代の阿麻和利（アマワリ）という人物であった。 低い身分だったが良く働き、勝連の重臣から実力を認められ、将来を期待された若者だった。 酒に溺れ、悪政が目立つ茂知附按司は、家臣からの信を失っていた。阿麻和利は酒宴の時、 重臣たちと共謀し、勝連城の石垣の上から茂知附按司を突き落としたという。1443年頃と思われる。 この知らせを聞いた護佐丸は、これはシメたと思った。勝連勢力は弱体化するに違いない、 さらには影響力も与えることができるのではと、阿麻和利に接近も試みた。

しかしこの阿麻和利という男、なかなかの切れ者であった。 世渡りもうまく、表面上は護佐丸や首里王府とよしみを通じる素振を見せる。 しかし第一に考えていたのは、自らが按司となった領地、勝連地域の発展であった。 もともとあった、奄美や喜界島、大和とのつながりに加え、中国・明にも船を送り、 交易を盛んにして勝連を豊かにした。また、領民が農業で豊かな実りを得られるよう、 善政を行った。このため勝連では大人気の按司になった。 最初は単なる若者と、甘く見ていた護佐丸も、 一目置くようになった。やはり勝連は、監視せねばならない相手であり続けた。

そうしている間に歳月は流れ、護佐丸は白髪の壮年になっていた。

中城　按司 護佐丸 琉球王府の不幸は続いた。1453年、５代目尚金福王もわずか３年の治世で亡くなってしまう。 すると、次の王座を巡って若き王子・尚志魯と王弟・尚布里が争いを起こし、 首里城を炎上させてしまうという事件が起きる。結局２人とも失脚し、王権はますます弱体化した この時、護佐丸は、尚巴志の五男で、中城城からも近い越来城の城主だった、尚泰久を、 次の王として推戴することにした。護佐丸は尚泰久に娘を嫁がせており、すでに３人の孫もいた。 なかなかの人物であることも知っていて、次の王にふさわしいと考えた。 このことは、阿麻和利とも意見が一致した。世渡りがうまい阿麻和利は、すでに尚泰久ともよしみを通じていた。

第６代の王となった尚泰久王は、中国・東南アジアとの交易を盛んにし琉球を豊かにすることに腐心する。 仏教を積極的に取り入れて、人心の安寧も図った。さらに、王女・百十踏揚 （モモトフミアガリ）を、阿麻和利に降嫁させた。 岳父に護佐丸、婿に阿麻和利、二人の有力按司を支えとする盤石な布陣で、 琉球王国の発展を目指そうとしたのである。

護佐丸にとって、百十踏揚は、目に入れても痛くない可愛い孫である。 いつの間にか美しい娘に成長していた。あの娘が、勝連按司に嫁入りしてくれるとは。 これなら、長年反目してきた勝連と和解し、平和な琉球王国が実現できるに違いない。 若い頃からこの国の安定だけを願ってきた護佐丸は、報われたという気持ちになったのではないか。 「我こそは琉球一の武将」と、自負も出来ただろう。 だが実際の歴史は、平和とはならなかった。この後に、大きな悲劇が待ち受けていた。 この先の歴史をたどるため、これから今回のグスク巡り最後の城、勝連城に行こう。

9:28、中城城跡のバス停から、北中城村のコミュニティーバス「グスクめぐりん」（西ルート）のバスに乗る。 いろいろ調べて見つけたこのバスを使うと、うまく行けそうなのである。 やってきたのはマイクロバスで、起伏の多い北中城村の細い道路を、あちこち寄り道しながら走った。 地元のお婆さんが乗ったり降りたりした。これで、北中城村役場前まで出て、 勝連方向に向かうバスに乗り換えるつもりだ。(→勝連城へつづく）