日本最西端

小さな空港である。１日２度、飛行機が飛来した時だけ にぎわうのだろう。急に予約を入れたので、今日は２便目 しか切符が取れず、明日は１便目しか取れなかった。本日 はこのまま宿に入り、明日のお昼にはこの島を離れねば ならない。しかし、与那国島の周囲はわずか２７ｋｍ。 自転車を持ってきた私なら、半日あれば回れるであろう。 さて、空港前で自転車を組み立てよう、と思ったけれど、 空からすでに雨粒が落ちてきている。さいわい、今日泊ま る民宿、「ハイドナン」の迎えの車が来ているので、ここ は自走はあきらめて、車に乗せてもらうことにする。 空港から、宿のある久部良（クブラ）の在までは約５ｋｍ。 右手に暗い海を見ながら、風にとばされそうになりながら、 車は走る。 「あれが、西崎（イリサキ）、日本最西端だよ」 と、宿のおじさんの指さす先に、こんもりと高くなった岬 のその上に白い灯台がある。岬の下は港になっていて、 石垣島から、大型フェリー「よなぐに」も、先ほど到着した 所だとか。おお、あこがれの日本最西端が、もう目の前だ。 車を降りて、午後５時。西にいるだけ日の落ちるのは遅い わけで、まだこれからでも一散歩出来そうである。西崎を 目の前にして、イカヌわけにはいきません。

さっそく自転車を組み立てて、最西端に行こう！ すると、すぐ横に居た若者が、「いい自転車ですね」と 話しかけてくる。彼も自転車でここにやってきた。今、 刈り入れ時のサトウキビの製糖工場でアルバイトをしる。 もう半年も家に帰っていないのだという。八重山の島々 には、こんな旅にとりつかれた若者がたくさん居るのだ が、いきなりそんな一人に会ってしまった。しかし、 彼も彼だが、花嫁を一人石垣に残して来た私も私だ。 身の上話なんぞし始めたら長くなっちまいそうなので、 とにかく自転車を完成させて走り出した。 　なんともあっけなかった。西崎の登りも、私のＭＴＢ のギヤ比の前にはどうということもなく、あっという 間に、「日本最西端の碑」の前に到着してしまった。 周りはアダンの並木が風にもがれそうになっており、 眼下の久部良の港の沖合のしらなみは、とても激しかった。 　常夏のこの島も、さすがに冬の北風が吹く今頃は、肌 寒いのである。もちろん１００ｋｍ先の台湾が見えたり するはずもなく、ただ記念の写真を何枚か撮って、岬を 後にしたのである。

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