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今夜の宿は手柄山ＹＨ．姫路城からは近い．一泊素泊まりで７００円と， すこぶる安いＹＨであった．食事は外で食べる．私はこのＹＨで，思い出深い２人 の旅人に出会った． 一人は岡山県湯原温泉に住む，小学校の先生，小谷哲生さん．このときは自転車で 京都まで旅をした帰りだそうだ．真っ黒に日焼けしておられた，年は私より３つほど 上である．この人はまめに手紙を下さり，その後も交友が続いた．このあと３年後に， 私はこの小谷さんを尋ねて湯原温泉にいく機会に恵まれることになる（第１０章参照） もう一人は，岡山の高校生，青木光男君である．彼はローラースケートで旅をして いう元気な青年だった．いろいろな旅の形の人に出会ったが，ローラースケートという のは初めてなのでいろいろと話を聞くうち，ついに明日は彼の伴走をしながら旅をする ことになった．ローラースケートと自転車，果してどんな旅になるのか明日が楽しみだ． 私は彼の走行距離にあわせて，ここからは短距離だが，神戸の垂水ＹＨを予約した． ７月２６日．今日はよい天気だ．軽やかなローラースケートの後を，私はゆっくり走る． けっこうスピードは出ている．だいたい，自転車の半分くらいの速さの様だ．播磨臨海 工業地帯の一角を国道２５０号線をぬって走る．坂道はやはりつらそうだ．しかし うまく蛇行しながら，青木君は登って行った．自転車も登りは大変なので同じだが， 下り坂が違う．ローラースケートはスピンしてスピードを落として止まるしかないので， 下り坂でスピードを出すことは出来ないのである．高砂市へ．右手に山陽電鉄の列車が 走っている．工場の多い高砂の町を走る．消耗が激しいのだろう．彼は私以上に水を飲む． ときおり，私の自転車の後ろにつかまってもらって走る．なかなか私も役に立っているの だろうか．やっと海が見えた．明石海峡である．海の向こうに淡路島が横たわっている． 私も，帰ってきたなあと思う．空には夏らしい入道雲が沸き上がっている．明石まであと ２０ｋｍだ． 突然，後ろでガシャンという音がした．振り返ると青木君が転倒している．彼は足を ひどく擦りむいていた．私はフロントバックから傷止めや包帯を取り出した．親がしつ こく持って行けと言った物が役に立った．しかし彼は，まだ明石まで走ると言う． 彼は今日は明石までで帰るつもりだが，またその後，夏休みをかけて東京まで走って いくつもりだと言う．なかなか目的が大きい．注意深く伴走しながらゆっくり走る． がんばれ！青木君，もう明石まではそんなにないぞ．午後４時，やっと明石駅に着いた． 青木君は私に感謝のしるしとして，赤いバンダナをくれた．これからも，すてきな旅を 続けてくれたまえ．岡山に帰る列車に乗る青木君を見送って，私はまたひとりで東へ 走った．明石海峡の海と入道雲が，夕焼けに染まってきれいだった．久しぶりにさわやか な旅をした，そんなローラースケートの青木君との旅であった．私は彼のくれたバンダナ を自転車にくくりつけた． |
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神戸垂水ＹＨは海の家のような作りで，夜の海を見ていると，これまでの旅が思い出 された．この海を渡って淡路島に渡ったのは，もう１週間以上前のことになった． さあ，あとは一気に帰ろう．紀伊半島の時は神戸から１日で帰ったが，今回は大津で 一泊して鈴鹿峠を越えて帰ろうと思う．翌２７日，須磨の海を右手に見ながら， ひたすら走り，紀伊半島の帰りにも走った国道１１７号線を東へ．どうも自転車の調子 がおかしいので見てみると，なんと後ろのフレームのパイプの一本の付け根が折れている． これはもう直せまい．この自転車と走れるのは，やはりこの旅が最後の様である． ５年間，本当にありがとう．そして，この旅もあと少し，がんばってくれと自分の 自転車に語りかけた．京都は迂回して淀，桃山から山科に抜け，逢坂山峠を越えて 滋賀県へ．大津ＹＨＣは立派なＹＨである． （続く） |
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