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私はこんなに厳しい，険しい渓谷を見たことが無い．吉野川の渓谷はとても深く， 両側の山はたいへん高い．高さ１０００ｍあるものもある．川の流れは急で，荒々 しい岩がごつごつとしている．土讃本線もあまりの険しさにつきあいきれないと ばかり，さっさとトンネルに入ってしまう．とんでもなく高いところだけに家がある． どうやってあんな所で生活しているのだろう．夜なら人家の明りと星を間違えそうだ． この川があの徳島市に流れていた同じ川だとは，どうも信じがたかった．徳島県に入り， ずいぶん走って大歩危小歩危の渓谷へ．さんざん吉野川の渓谷を見てきたので，もう 渓谷美はいいから早く広い所に出たいと思うばかりであった．大変暑い日で，ずいぶん たくさんジュースを飲んだ． |
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大歩危駅で休憩する．観光地であるが，列車のくるまでに時間があると見えて， 閑散としている．川を眺めながらスポーツドリンクを飲んでいると， 「すみませんシャッター押して下さいませんか」と女の子が話掛けてきた． 大きな帽子が印象的な二人だった．あまり日にやけていない．私の方はもう真っ黒だ． 「どこからこられたの」と私は聞く． 「東京，あなたは？」 答えるのが面倒くさくて，高知から，池田までいく途中だと答えた． 「ふーん，でも東京の人なんでしょ」 「いや，僕は名古屋です」 ただ，それだけの会話であったけれど，山の中を走り続けてきた今日の旅の中で， ふっと都会の風に当たったようで，印象的な出来事だった．少し元気が出てきて， 私は池田の町まで一気に走った． 阿波池田は，あの蔦監督率いる高校野球の伝統校，池田高校のある町だ．町は谷底 にある感じだ．吉野川はここで右に９０゜曲がって徳島に注ぐ．阿波池田ＹＨで， 私は室戸岬の東寺ＹＨで知り合った北海道のサイクリストに再会した．阿波池田ＹＨ は，その後何年かで無くなってしまった．思い出深い場所だったから，残念である． ちょうど一週間目の７月２２日，私は瀬戸内側に出るための峠を登っていた． 国道１９２号線，トンネルを抜けて愛媛県川之江市へ入る．これで四国三県目である． 天気が今一つ良くない．今日は雨に降られるかもしれない．川之江駅に立ち寄ったが， この町はどうも工場が多いせいか，空気が良くないように感じられたので，早く抜けて しまうことにした．右手に予讃本線が走り，左手に瀬戸内海が見えた．島影がいくつも 見える．四国横断に成功したのである．「香川県」の標識が見えてきた．もう愛媛県を 抜けてしまうのである．これではさすがに愛媛県走破と言うにはおこがましいような 気がする．３年前の川合君は，もう一つ西の伊予三島の町まで行ったらしいが， やっぱり不十分だと思う．今治，松山，大洲，八幡浜，宇和島，行ってみたい町が 愛媛県にはいっぱい有るが，今回は行けない．いつかもう一度愛媛県を走りたいと思い ながら，四国最後の県，香川県に入った． （続く） |
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