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パーソナルコンピュータブームは，１９８０年頃から始まり，８２年には８ビット機 に混じってそろそろ１６ビット機も登場し，社会的現象になりつつあった．大型だった コンピュータがＬＳＩ技術の発達に寄って，たった一つの石のなかに入ってしまうよう になった．なんでもマイコンで制御でき，カメラもミシンもしゃべり始めた．マイコン を使ったパーソナルコンピュータによって，それは身近な物になっていった．そんな流 れを，工学生であった僕らは敏感に受けとめて，友達の間でもパソコンを持つことがブ ームになっていた．私もそんな流れに興奮した一人であって，１０万円以上もするよう なパソコンを，大枚はたいて買ったくちである． このころの影響がやがては私を今の仕事に結びつけて行く．そんな工学系の学生の雰 囲気のなかにいて，だんだん私は工学が好きになり始めていた．機械工学もこれからは こういった電子制御の技術と組み合わせたメカトロニクスの分野が大切になってくるだ ろうと思った．そしてばくぜんとそんな技術に関わっていきたいと思うようになってきた． そうなると大学の授業もだんだん面白くなってきた． |
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また，大学が面白くなってきたのは，たくさんの 友達が出来てきたからである． 学生の，いいかげんだが自由のある生活にも慣れてきた． 教養部にはクラスがあり，同じクラスの友達の下宿に 押し掛けて何をするでもなく騒いでいるような日が 続いた．楽しい日々であった．そんな気のおけない 友達の中の一人に，長野県中野市出身の，久野忠昭君 がいた．金属学科であった．ひょうきんな男で，クラス の人気者である．彼は，桃や,えのき茸を作っている 農家の次男．そのふるさとの話をおもしろおかしく聞く うちに，一度行ってみたいと思うようになってきた． |
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それで，大きな一人旅のサイクリングを考えていた私は，８３年の夏は久野君の家， 長野県中野市を目指すことに決めた．いろいろコースを考えたが，結局，行きは北陸を 走破し能登半島を走り日本海側から長野県へ入る大廻りなコースを取ることにした． 帰りは長野，松本経由で帰る．全行程は１０００ｋｍ程になるであろう．これは紀伊半島 ８００ｋｍを越える旅である．きっと満足の出来る旅になるだろう． |
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また，資金を稼がなければならないなと思った．それで私は去年とまったく同じ アルバイトをする事にした．去年働いていた部所の課長さんは，私を覚えていてくださり， 今年もその課に引っ張ってくださった．そのおかげで仕事は慣れた物，やりやすかった． 今年は久野君も同じデパートでアルバイトしていた．私と一緒にアルバイトを頼みに行っ たのだ．彼はお酒売り場になった．お酒売り場はデパートの売り場の中でも，扱っている 物が物だけに，配達，品物の補充など，重いので大変な部所である．しかし時折売り場に 出て彼に合うと，持ち前の性格で楽しくやっているようであった．やっぱり売り場の人気者 であった．彼のしているネクタイは実はうちから借りて行った物であった． 私は二十歳の誕生日をこのアルバイトをしながら向かえた． 久野くんはアルバイトが終わると，長野に帰って行った．私は旅行の準備である． 自転車屋に行き，フロントバックなど，新しい物を買う．タイヤとチューブも交換した． ２０万分の１地図も手に入れた．フイルムもスタンプ帳も準備した．準備万端整った． 自転車屋には紀伊半島を一緒に走った川合君と出かけた．彼は彼で，会社のお盆の休み を利用して，静岡方面から富士，甲府，諏訪というコースを走破する旅を計画中であった． まったく私に向こうを張った様なコースである．お互いの無事を祈り，夏の終わりにまた 会おうと言って別れた．どちらが素晴らしい旅が出来るか，競争だ． さて，準備でもうひとつやって置きたいことがあった．私はパソコンでプログラムをし 始めた．私のパソコンにはプロッタプリンタという，ペンが動いて図形を描く小さな装置 がつながっていた．これに，自分の住所や氏名を書かせて，何枚も同じものを作って名詞 がわりのカードを作ろうというのである．そして旅先で出会った人にこの紙を渡そうと 思っていた．この旅では，どんな人に出会えるだろうか．楽しみである．あいにくこの プロッタプリンタはほとんど漢字が打てないので，カタカナばかりの文面になる． まるで外国人の文章のようだ．漢字の打てるプリンターは，このときの私にはまだ高値 の華であった．
「ボクハ ナゴヤカラキタ ダイガクセイ デ |
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