お馬さんがいっぱい


 ファンホース新冠YHの広間には、壁一杯の本がある。それは、競走
馬の血統書である。サラブレッドは、血統を大切にする。五代血統と言
ってその馬の五代前までの馬の血統が、明らかにされた資料が、一頭一
頭そろっているのだ。この日高中の馬の。ここでは、”どこの馬の骨か
わからない馬”は存在しないのである。人間様の方がよほど血統がはっ
きりしていない。


 それをまた、いろいろ記憶している、馬マニア、馬おたく、たちが集
まって見ているのがこの部屋である。競馬は、賭事としてのめり込む人
と、馬そのもののファンになってしまう人がいるのである。ここ新冠Y
Hは、馬が好きで、わざわざ北海道まで見に来てしまった、そういう人
の宿である。彼らはそれぞれお目当ての馬のいる牧場を目指して旅をす
る。ここにはシンザン、ハイセイコーからオグリキャップまで、一世を
風靡した馬がすべて引退して余生を送っている。同室の人の話を聞きな
がら、その知らないディープな世界を、少し覗いた一夜だった。


 8/3,今日の宿泊地は、30kmしか離れていない豊郷夢民村YH。こ
ういう予定にしたのは、少し馬を見ながら休憩の日を作りたかったから
である。幸い3日続いた雨も止み、今日は青空さえのぞくいい日和だ。
すこし新冠の牧場めぐりをしてみよう。新冠川のほとりの林のなかに有
るYHを出発し、国道に出て、新冠川に沿って登る1本道に進む。この
道を、サラブレット銀座という。両側は牧場ばかりである。形の美しい
すぐに競走馬とわかる馬たちがのどかに草をはんでいる。鹿毛、栗毛、
芦毛、昨日覚えたばかりの馬の毛による分類を確かめながら進む。前方
北側には、日高山脈の山々が連なっている。


 人だかりのある牧場は、オグリキャップのいる牧場。芦毛のオグリキ
ャップはすっかり白くなっていたが、なにか美しい感じがした。その前
には既にみやげ物やが用意されていて、オグリキャップグッズを売って
いる。私もいくつかみやげを買って、人だかりを後にした。さらに北上
して10km程。新冠川を渡り、丘に上がる。映画”優駿”の撮影がお
おこなわれたので、オラシオンの丘と呼ばれている所。広い広い牧場に
多くの馬たちが思い思いに過ごしている。まことに絵になる、そして走
りがいのある小道であった。20km走って新冠の街に戻る。


 昼食後、海岸に沿って走る。濡れた洗濯物を外に出して、時折干す。
北海道の日差しは優しく、25度まで気温は上がっていないだろう。
昆布取りの女性も、今日は仕事しやすそうである。豊郷の駅までは30
km、左手に海、そして優しげな丘をいくつか越えていった。門別町も
また馬の産地。豊郷の駅から、夢民村YHまでの道も、牧場、調教場の
たぐいがずらり。いななきばかりが野に響く。少し止まって馬を眺めて
いると、馬の方から珍しそうにこちらに寄ってくる。馬というのは本質
的に、人といっしょにいたいのだ、と聞いた事がある。本当なのだなと
思う。真新しいログハウスのYHが見えるまで、馬との出会いを楽めた。

(続く)



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