野幌の鍼灸院

　９４年の夏がやってきた。今年の夏も、また北海道にツーリングに 行きたいと思っているが、さて何処に行こうかと考えていた。 前年までの旅で、一応知床から道東を経由、帯広・富良野・旭川・滝川 を経て札幌、室蘭、函館と、ずっと自転車で走った１本の線を、日本列島 の南の果てまでつなぐということが出来た。なので今年は、たくさん走る 必要はなく、気になっている１箇所に集中する形で、行ってみようと思う。 　私が選んだのは、積丹半島である。小樽から先、奇岩怪石の続く様は、 日本の秘境と言って良い眺めだという。そして積丹半島の先端、神威岬は 神秘的な場所だという。ぜひ行ってみたいと思う。

　例によって、旅の友・加藤さんに連絡する。昨年は帯広で鍼灸の勉強を していた加藤さん、今は札幌近くの野幌の町で、鍼灸院を開業されている。 なので、今回はその様子も尋ねようと思う。そして、加藤さんから１つの 提案があった。積丹半島を回った後、加藤さんのふるさと、秋田へ来ませ んか？という話である。帰省する予定だそうで、一緒にどうか、ということ である。ちょうど東北４大祭り・竿灯が行われるころだ。願ってもないこと なので、是非にとお願いした。

　７月２９日。毎年と同じように空を飛び、千歳空港駅からすぐに列車に乗り、 札幌経由で小樽へ向かう。９１年に走った銭函海岸あたりの海、青く美しい。 小樽の駅で自転車を組み立て、荷物はコインロッカーに預け、少し散歩する。 北一ガラスの店や、運河のあたり。旧日本郵船の歴史ある建物などを見学。 さらに少し走り海岸沿いのトンネルを抜け、祝津の高島岬にある鰊御殿を 見学する。もともと鰊御殿はここにあったわけではなく、移築したものらしい。 高台にあるので周りの海がとてもきれいだ。今はぜんぜん取れない鰊だが、 江戸時代は上方で肥料にするほど取れたのである。このあたりの浜はいつも 大漁で盛り上がっていたのだろうな、と思う。小樽で見逃していた場所を いろいろ訪問できて、よい時間だった。

　それにしても暑い。今年は非常な酷暑である。昨年は冷夏だったので、反動 だろうか。いつもの年なら北海道に来れば気温は２０度台で、ああ涼しい、と すぐ感じられるのに、今年は違っていた。札幌でも気温が３０度を超えている。 これは大変だぞ、と思った。自転車の旅は明日からの予定で、今日は小樽に 自転車を置いて、野幌にある加藤さんの鍼灸院を訪問することになっている。 夕日に輝く海を見ながら、列車でもう一度札幌方面に戻る。

（続く）