|
クマでも出てきたらとだんだん心配になってきた．私はラジオのボリュームを大きく して行くことにした．ラジオは，今日総理大臣になるはずの細川氏の指名が，自民党の 抵抗でなかなか始まらないというニュースを流していた．局を変えれば，ヒット中の 沖縄音楽，「島歌」のレコードが流れた．北海道の樹海の中で沖縄の音楽を聞いていると， すごく不思議だ．次は電子音楽系のテクノポップ．これは不思議すぎて耐えられなくなり， 私はラジオを切った．すると森の静けさが，とても心地よかった． シラカバの木の間から森に差し込む光りがずいぶん斜めになってきた．もう夕方なのだ． 前方が少し開けて立派な山が見えてきた．富良野岳，十勝岳の山々である．その下に豊かな 畑が広がり始めると，麓郷である．今日の宿は「ふらりん」という「とほ民宿」だ． 「とほ民宿」については前にも書いたと思うが，ＹＨ形式の民宿が集まって「とほ」と いう案内誌を発行，運営しているグループである．広い北海道では，この民宿はＹＨの 補完的役割をしてくれるので，大いに利用すべきである．麓郷交差点を右に曲がって山の 方に登って行くと，そこに二階建ての「ふらりん」がある． （その後ふらりんは、麓郷ＹＨになりました） 見たことのある水戸ナンバーのＲＶ車が止まっている．そう，知床岬への船に一緒に 乗った吽野さんである．彼も麓郷に行きたいと言うので，知床で別れる前にここを教え たのだが，本当に予定通りやってきたようだ．再会を祝し乾杯．二階の部屋から外を 眺めれば，ドラマ「北の国から」で見たままの，緩やかな起伏の畑が夕日を浴びていた． この宿に一つの部屋がある．大きなテレビが置いてあるのだが，特長はビデオテープ の方だ．「北の国から」の全てのビデオが揃っているのだ．ここ麓郷で泊まる人はほと んどこのドラマのファン，ないしはマニアである．彼らはこの部屋で，ドラマのロケ地 がどこであるかを同定するための資料として，このビデオテープを見るのである． 吽野さんが熱心にあるシーンを捜している． 「ああ，やっぱりここだ．れいちゃんが自転車のチェーンを外した所！」 などど言う．彼が相当のマニアであること．わかる人にはわかるかと思う． 夜になり，宿のご主人が， 「富良野のワイン工場でラベンダーの花のライトアップやってるよ．きれいだよ」 と言うので，吽野さんは行く気になってしまった． だいたいドラママニアと言うのはミーハーに決まっていて，こう言うことを聞くと 行かずにはおれないわけである．さっそく何人か女の子を連れて，ＲＶ車は闇に繰り出す． 麓郷から富良野市街までは２０ｋｍもあって，散歩に行く距離ではないのだが，ガーっと 走って行ってしまった．紫のラベンダーはあやしげに光り，その中に入ってキャーキャー 言いながら記念撮影．高台から見おろすので，富良野の町の明りもきれいだった． ドラママニアたちが，ミーハー心を満足させた一夜だった． |
北海道の夏のページへ