女満別上空の旋回


 千歳空港上空で右に旋回し,日高山脈をこえて帯広上空に達した全日空327便
(A300)は,再び左旋回して女満別空港を目指す.秋田あたりでは男鹿半島の
大きな山を眼下に望むことが出来たが,津軽海峡あたりから低空の雲が濃くなって,
眼下の風景は白っぽくなってしまった.
 雲の間から雪を頂いた山が見えてきた.大雪連峰らしい.そして雲海の狭間から
見えた湖は糠平湖か.モノクロに見えていた風景がだんだん色付いてくる.
小麦の黄金色だ.ジャガイモの緑だ.なだらかな丘陵に見事な畑がどこまでも続い
ている.北見の町を見おろし,行き過ぎ,しばらくするとはるか眼下に滑走路が見
える.あれ?空港を行きすぎてしまうぞ!と思っていると,飛行機はさらに北に進
み,網走湖の湖面の上を行き,サロマ湖を遠くに望み,オホーツク海に出るところ
で翼を右に傾けた.180度旋回だ.
 翼が水平に戻ると,雲海の上に2つの山の頂があらわれた.神々しい.知床連山
の斜里岳と海別岳である.思いがけない美しさに見とれているうち,機はどんどん
高度を下げ,一度行き過ぎた女満別空港へ滑り込んでいく.
気温20度,薄雲り.午後2時の女満別空港はとてもさわやかである.


 団体さんたちには迎えのバスが来て,あっという間に片付いて,空港は静かにな
った.私は自転車を受取り,組立を始める.それにしてもこの空港の回りの風景の
伸びやかな事.いっぺんに北海道らしい北海道のまん中にいる.
 走り始める.ちょうど私の乗ってきた飛行機が名古屋折り返しのために離陸した.
やはりオホーツク海に向かって飛び立ち,旋回して南に向かう.私は消えて行く
飛行機を見送って,滑走路の端を離れた.

 旅の親友、帯広の加藤さんから手紙を頂いていた.網走に行くのならぜひ
「網走市中園」へ行って見て下さいというのである.女満別空港から網走の市街地
へは,網走湖沿いの国道39号線を行くのが普通のコースだろうが,この中園とい
う在に行くには,途中で右に曲がり,丘を越える.北海道通の加藤さんの事だから,
何か素晴らしい風景が待っている事だろうと思う.
 行ってみることにする.女満別の小さな市街を抜け,右に曲がる.小麦が波うつ
ような緩やかな曲線を描いて並んでいる.岡の向こうに雲があり,その上に斜里岳
の頂だけが顔を出している.ジャガイモの白い花が満開だ.その向こうにホクレン
の赤い倉庫がある.それにしても広い.地磁気を調べる測候所のシラカバの並木を
歩いたり,風景を楽しむ.

 後方の岡の向こうに湖が見えた.網走湖であろう.どこまでも境目のはっきりし
ないほどの面積がすべてジャガイモの花でにぎやかだ.ジャガイモの花にも2種類
あって,赤いのと白いのがあるようだ.これは品種の違いであって,赤いのがメイ
クイーン.丘を上り尽くて,網走市に入った.
下りになった道をのんびり.いくつかの道が集まって交差点になった所が中園だ.

 すぐに加藤さんの意図はわかった.この広大で豊かな畑を見せたかったのだろう.
見渡す限りの畑.雲の上に斜里岳が頭を出す.この東側の小清水町,斜里町に広が
る丘陵はずーっとこんな畑が広がっている.とても収穫量の多い豊かな大地なのだ。
海が見えた.オホーツク海である.釧網本線の線路を渡り,国道244号線を横切
り,鱒浦の浜に出た.穏やかな波が打ち寄せている.セグロカモメが2羽,浜を歩
いている.沖の岩にたたずんでいる少し大型の鳥は,アオサギのようである.遥か
右手の沖合いに,幻のように山々が見える.知床連山の一部であろう.私は網走市街
を目指し,海に沿って走った.

(続く)



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