地球岬再び

　東室蘭駅で輪行袋を持って降りた人は，何人もいた．さすがは北海道，頼もしいものだ． 時間が早すぎるので待合室で休んでいる仲間の前を通り過ぎ，私は駅前に出た。 さっそく自転車の組み立てを始める．早く思い出の地球岬に行ってみたかった。 一緒に自転車を組み立てていた東京の人に，「地球岬は険しいから，荷物は駅に 置いて行った方がいいよ」とアドバイスして，私もパニアバックをコインロッカー に入れて身軽になった．走り出す．スピードメーターの速度が上がる。 さあ，旅の始まりだ．思う存分走るぞ！ 今回の旅の出発点を，また地球岬に決めている私は，岬を目指して走り出した． 　さっそく登り坂である．室蘭は立体的な町である．港を抱え込むような形で 山が迫っている．その尾根を登って行く．北海道らしく山には高い木があまりなくて， 草の原になっている．眼下には製鉄所の風景が広がっている。

気持ちよく登っているうちに，左足に激痛が走った．私は自転車から転がるように落ち， 道路にひっくり返ってしまった．足がつったのであった．幸い自動車が通るような時間 でなかったので良かったが，見動きが取れない．これはまいった．二晩も不自然な姿勢で 車中泊だったこともあって，筋肉の調子がおかしかったのであろう。やはりしばらく 東室蘭駅で休憩してから登るべきだった．気持ちがはやって自分の体調を読み誤って しまったようだ．俺もヤキがまわったか？これから旅が始まるのに，なんとも先が思いやられる。 　どうしようもなかった．あせりの気持ちをすぐに打ち消して，対処しようと思った。 こういう状態は始めてではない。足の力を抜いて，ゆっくりしていれば自然に直って しまう傷みだ．そのまま，しばらく道に転がっていることにした．

白い岩肌をあらわに高い崖が海に落ちている．あの崖はハヤブサのすみかだという。 空は曇っており，８月だと言うのに肌寒い．そんな地球岬に再訪した．あれから５年が 経っているが，変わらぬ大きな風景は，過ぎ去った年月を忘れさせてくれる。 前回は、東北全県走破の目的があり，この地球岬を北限にして南に旅を始めた。 今回の旅は，北へ！そう、日本の北の果てまで行こうと云う旅である。 白い灯台にその事を告げて，旅を始めよう。

（続く)