私の自転車日本全県走破第１４章（10）

２０００ｋｍ行こう

　パンクしてしまった．日本の果てまで来て，ついていない．私は西表島が遠くに
見える浜辺から，公民館のある集落の中心まで自転車を押していった．荷物を降ろし
て，修理のために車輪を取り外した．パンクは大した事は無い様である．
「何してるの？」
と男の子が話しかけてきた．学校帰りのようだ．ランドセルを背負っている．
「パンクしたからね，直しているんだよ．」
「ようし，手伝ってあげるよ．」
もう一人男の子が現われて，珍しそうに私の空気入れを触っている．
「いいよ，それより君の名前は？」
「ヒロシ！１年生だよ．」
「マサカズ！僕も同じ．」
「これ，空気入れでしょ，どうやるの？　どこで買ったの？　石垣？」
ここの子ども達の知っている町はもちろん石垣市だけなのである．
「こら，だめだよさわったら！せっかくパンク直したのにまた壊れたらどうするんだよ」
やっと直ったパンクなのに，また自転車を壊されてはたまらないと思った．

　ようやく修理が終わったから出発しようとすると，
「乗せて，乗せて」と言って自転車のサドルと荷台に乗ってしまう．
「弱ったな，どこまで行けばいいんだい？」
「お兄ちゃんの家まで！」
「それはだめだよ，僕の家はすごく遠いんだ．」
「どの位遠いの？」
「そうだね，２０００ｋｍ位かな」
もちろん２人にはピンと来ていない．
「じゃあ，僕んちまで．」
「わかったよ，ヒロシ君のおうちはどこだい？」

「ずっと遠いよ，２０００ｋｍはあるもん！」

島の少年の言葉は，ウイットに富んでいた．
私の帰る船の出る港は，すぐそこであった．港に近づくと，よく心得えている物で，
２人は自転車を下りて，ありがとうを言って，走って家に帰っていった．
　さて２０００ｋｍ，帰ろうかな．私は港に続く坂を降りていった．
島を取りまく珊瑚礁の色が明るく目の前に広がった．

ー完ー

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