私の自転車日本全県走破 第14章(4)

夢の完結のために

長坂くん(那覇牧志にて)

 日本全県走破の夢の完結の前に,私はやはり入社以来取り組んで来たマシニングセンタ
のCAD/CAMを製品化するメドを立てて置きたかった.私の旅はその時の私の取り
組んでいる仕事と織物になっているような所があって,旅の夢の完結は,仕事の完結の
後でなければ素直に喜べないものになってしまいそうなのである.既に昨年末から評価
に入ったその製品の,ツメの時期になっていた.


 この仕事も3年間続けてきて,いろいろなことがあった.その間に仕事のメンバーも
変わってきた.新しいメンバーが入ってきたときはいつも大変楽しく嬉しいのであるが,
逆に家の事情や会社の転勤などで新天地に変わって行かれる人が出るときは,まったく
寂しかった.同期で入社した女の子もお嫁さんに行くので会社を辞めていった.特に頼れ
る先輩が変わって行かれた時は,その穴を埋めようとしても,自分の至ら無さのためにそ
うは行かず,苦しい日々が続いた.それでも時間をかけて残された者でなんとかしようと,
いつも努力だけはやめてはいけないと思ってやっていた.

 辞めて行かれた人の残して行った物を無駄にしないようにするのが残された者の勤めで
ある.苦しいけれど,ここがふんばり所であろう.4月の始め,バージョンアップのため
に忙しい毎日が続いた.夜遅く帰っては,工場の廻りにある桜の木の,街灯に照らし出さ
れたつぼみの開花の様子を確かめる毎日が続いた.しかしそれも一段落して,暖かい春が
きた.まだまだやることは残っているが,ある段階までは製品の完成度が高まってきたと
思う.私は仕事の成果に満足していた.そしていよいよ,日本全県走破最後の旅への計画
を立てる時がやってきた.

 私のデスクの電話のベルが鳴った.「沖縄行きましょう!」
電話の相手は,会社の1年後輩で,大学の後輩でもある,長坂敏弘君である.彼もまた,
日本のほとんどを走り尽くし,さらにニュージーランドも走った事のある本格派サイクリ
ストである.飲み会の席などでそんな旅の話をしているうち,私はきっと,今も自分が
日本全県走破を目指している事を口走ったのであろう.それを聴いた長坂君も,考えてみ
ればあと沖縄県に行けばご自身も日本全県走破が出来る事を思い出したのだろう.彼の旅
の虫も沖縄に向いたと言うわけだ.それで私はこの長坂君と,日本全県走破最後の旅に
出発する事にした.なんとも愉快ではないか.どうしてこんなに近くに同じ事を考えている
人がいたのだろう.ここまで来るともはや縁と言うしかない.同志を得た感じで心強い.
忙しさにかまけて,長坂君に,取りにくいゴールデンウイークの沖縄への航空券の手配を
頼んでしまったり,ずいぶん迷惑をかけてしまった.ここで御礼を述べておきたい.

 私たちの計画は,飛行機で名古屋から那覇に飛び,さらに石垣島まで行くつもりだ.私に
とって初めての飛行機輪行であり,最も遠い所への旅になりそうだ.私は自転車のバッグを
すべて新調した.日本全県走破の夢の完結のための最後の旅だと思うと,準備にも熱が入った.



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