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夏が暑かった事もあるのだろうが，今年は台風の当り年でもある．９月になって急 に涼しくなって来たと思ったら，台風１９号が日本列島を直撃した．私の職場は古い 工場を改造した事務所なので，雨漏りがひどいし，排水設備も不十分だ．まったく閉口 した．真夏の水不足が嘘のようである．しかし台風明けというのは天気の良い物だ． ちょうどタイミングよく３連休がやってきたので，私はこのチャンスに関東残り２県を 走破する事にした． ９月２２日，快晴．私は日光の旅以来，輪行袋の中にしまったままになっていた自転車 をかついで，また出かけた．しなの３号で長野を目指す．朝が早かったので列車の中で 居眠りをしていて，ふと気が付くと木曽谷の険しい渓谷の中を列車は走り，名勝寝覚めの 床の白い岩が見事だった．松本を過ぎ，姥捨山から千曲川の流れを見おろす．もう何度も 見慣れた風景だ．今日はこの川中島の地から旅を始めようと思う． 長野から２駅戻って川中島駅に降り立つ．ここから今回は上田，小諸，軽井沢と国道 １８号線沿いを走り，碓氷峠を越えて群馬県，さらに埼玉県を目指そうという計画だ． これが関東全県走破最後の旅になるはずである，がんばろう．細かい話になるが，私は ８３年の夏に北陸，信州を走破した（第４章参照）が，その時長野駅には自転車では行 っていない．それで実際自転車で行った記録のある川中島の駅から走る事，この点に こだわることになった．どうでもいい事のようだが，そもそもこの日本全県走破の計画が 趣味のこだわりから来ているので，こういう点が重要なのである．ちょうどお昼，ひなびた 感じの駅前から走り出す．天気は良く暑さもなく，さわやかな風が吹いてくる．本当に サイクリング日和である．秋の気配が川中島の田畑を覆っている． 少し走ると，川中島の戦いの決戦地，八幡原である．１５６１年，武田信玄と上杉謙信 が決戦をした有名な古戦場だ．信玄の本陣に謙信が切り込んだと伝えられるこの場所に， 三太刀七太刀の碑が立ち，二人の銅像がある．さらに少し走り千曲川が見えてくると， 川中島の戦いの戦没者を慰霊する，典厩寺（てんきゅうじ）がある．典厩とは，信玄の すぐ下の弟，信繁の号である．武田典厩信繁公は，よく上杉軍を防いだが，ついにここ で戦死したのである．この寺は合戦から６０年後，典厩寺という名前になり，戦死者の霊 を弔う寺となった．漆喰と木で作られた赤い閻魔大王の像が，たいへん印象的だった． |
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千曲川を渡ると，松代の町である．長野電鉄の駅まではすぐだ．この松代も歴史の町 である．真田幸村のお兄さん，真田信之公は，弟や父昌幸公と袂を分かち徳川方に味方 した．その後，徳川幕府から，代々の地上田から転封されてやってきたのが，ここ松代 １０万石である．松代の城は武田信玄が川中島の押えに築いた海津城の跡である．真田 の歴史と宝物を展示した真田宝物館，真田屋敷，松代藩文武学校と，たいへん見所が多 い町だ．長い武家屋敷の壁が続く道を走っていると，なんだか江戸時代に迷い込んだ様 である．この松代の町から，幕末，もう一人有名な人が出ている．佐久間象山である． 多くの幕末の志士たちに影響を与えたといわれる人である．朱子学，蘭学を教え，開国 論を唱えたため京都で暗殺されてしまった．西洋文明を取り入れた開明的な人で，大変 尊敬されている．松代には，その業績をたたえた象山記念館，象山神社がある． 歴史の好きな私にはたまらない松代の町であれこれ見ているうちにどんどん時間が経 ってしまった．これくらいにして旅を続けよう．まだ昼食も食べていないが，もう２時半だ． だいぶ空腹である．長野電鉄に沿って走り，松代の町を後にする．川中島の平原の向こう には，戸隠や姥捨の高い山々が見えた．この辺りは古い街道の様で，家の作りも古い． 屋代の駅前で食事をし，さらに南へ．信越本線の特急「あさま」が左手を走っていく． 戸倉の町を過ぎると千曲川が右手に広がる．悠々とした流れだ．台風での増水もそろそろ 治まって来た頃である．川向こうに戸倉上山田温泉の町が見える．坂城町の辺りの風景は 大変信州らしく伸びやかで気持ちがよい． |
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今日は上田の町で泊まる．町に入り，右手に進んで行くと上田城跡である．上田の城は 真田昌幸が築いた名城で，２度に渡る徳川の軍勢の攻撃を退けた上田合戦の舞台である． 今はいくつかの隅櫓が残っている．そして城内には真田神社がある．真田家が松代に転封 になった後，仙石，松平氏が納めるようになってからも，上田の人々は真田の城下町の ごとく真田氏を尊敬していた様である．町のあちこちで真田六文銭の紋を見ることが出来 る．城の南側は千曲川への崖になっており，他の３方を堀で囲んでいる．その外側をぐる りとまわって見る．野球場があり，丸子実業と上田東高校の練習試合が行われていた． 駅前に行き，ホテルに入る．さすがに信州の夜は涼しくて気持ちがよい．夜になり，町 に出て食事をした．トンカツ屋に入ったが，サービスの良い店で，そのせいで私はこの 上田の町がすっかり気に入ってしまった．明日はいよいよ碓氷峠を越えて群馬県だ． さすがに疲れているようで，よく眠れた． |
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