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九十九里浜白子ＹＨには，この日３人のサイクリストが集まった．ともに明日は房総半島 の最南端，野島崎を目指し，館山ＹＨまで１００ｋｍを走ろうとしている．一人は名古屋か らやってきた日本全県走破を目指す私で，昔ながらのランドナーに乗っている．２人目は 埼玉県の社会人喜田恵介くんで，房総半島一周にやって来た．今様のマウンテンバイクに のる．風貌は，眼鏡をかけたその姿が５，６年前の私によく似ており，なんとなく他人と 思えない．３人目は若手，川崎の下津浦大輔君．学生，細身の彼は，いかにも速そうな ロードに乗っている．３人はコースについて，いろいろ情報を交換した． 旅は道連れだがら，明日は一緒に走るのがいいと思う人がいるかも知れないが，それは 必ずしも善いとは限らない．一人一人走り方が違い，年齢も違うこのような場合は，それ ぞれのペースで走る方が，他の人のペースに合わせるより疲れないものである．一番年上 の私は，一緒に走ったら，きっと２人に付いて行くのは大変だろうと思う．３人はこの点 意見が一致して，館山ＹＨでの再会を約束して，それぞればらばらに出発することにした． 先発は下津浦くん．朝６時に出かけた．２番目は私，８時ごろ出発．喜田君は悠々とゆっ くりしている．５月２日，白子ＹＨを後に，また南を目指す．今回の旅の中で一番距離の 長い行程である．このＹＨの建物を，自分達の大工仕事で建ててしまったというＹＨの 親父さんは，「なあに．館山なら１日で走れるよ．がんばって」と見送ってくれた． |
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しばらく九十九里浜に沿って走り，一宮町で浜に別れを告げる．ここから先は房総半島 の山が海に迫ってくる．大原を過ぎ，なんだかずいぶん立派なマンションが幾つも立ち並 んでいるなあと思ったら，そこが御宿であった．ここの砂浜を見て， 月の砂漠をはるばると旅のお方が行きました．．． という歌が出来たと言う，ロマンチックな町である．海岸は海水浴場で，らくだに乗った 旅人の像が作られていた．それにしてもこのリゾートマンションの数はどうだろう．海岸 にいくつもニョキニョキと建っている．御宿町では，あまりのマンションの増加の速さに， 水道，ゴミ処理，あらゆる設備が間に合わす，困っているらしい．これも地元を無視した 都会人のエゴ押し付けの開発の一つではないか？別荘地には別荘地の伝統があり，環境を 壊さないようにうまくやってきた例はいくらもあるはずだ．そういう所を見習って，利益 主義だけで急激な開発をするのはやめて，地元と調和して行って欲しいものである． 次の町が勝浦，外房一の漁港．魚市場に行ってみたが，残念ながらもうお昼，市場は がらんとしていた．お昼を食べ，不用な荷物を郵便小包にしたりしている内に，ずいぶん 時間を食ってしまった．さすがに外房の海らしく，山も波も険しくなってきた．レジャー ランド行川（なめがわ）アイランドの前を走っていると，喜田くんに追いつかれた．彼は 勝浦の海中展望塔にも行って来たという．やっぱり彼の方が健脚のようだ．しばらく一緒 に話ながら行く．朝早く出た下津浦くんはＹＨの会員証を忘れて出発したらしく，喜田君 が預かっているという．下津浦君は今ごろどこを走っているだろう．「おせんころがし」 の断崖で２人で記念撮影．どこか似ている２人だった．また２人は別に出発した． 安房小湊，安房天津，鴨川．．．なかなか房総半島の南端，野島崎は遠い．それにして も，安房の国とは，南に来たなあと思う．安房の国は「南総里見八犬伝」のモデルになっ た里見氏が支配していた国だ．関東の雄，小田原の北条氏に対抗した独立勢力である． きっとこの暖かい土地柄，豊かな国だっただろうと思う．このあたりには鯛の浦という， 鯛の餌付けを長い間行ったため，鯛が集まるようになったという場所さえある． 鴨川シーワールドに行くための車の渋滞から解放されると，暖かい外房の風景に接する ことができる． |
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太海，江見，和田，国道１２８号線は時には岩場を，砂浜を，砂防林の中を走りながら 南へ向かう．千倉を過ぎると，花が目につく．これが千倉のお花畑で，暖かい気候を利用 して花が栽培されている．花を見ながらの実に楽しいサイクリングである．そして，そろ そろ我が自転車の走行メーターが走行距離１００ｋｍを告げる頃，はるか前方に白い燈台 が見えた．野島崎，房総半島南端である． 野島崎は半島のように突き出している．燈台の入口を右に入り，西の海の見える芝生に 自転車を止め休む．感激した．うっすらと伊豆大島が見えたからである．あそこには３月 に行ったばかりであった．とうとうきたな，と思う．一人近づいて来た人がいる．喜田君 であった．一足先にここに着き，これからＹＨに向かうと言う．なんとか彼にそんなに放 されずここまで来られた様だ．もうしばらく西の海を見て休む．太陽はだいぶ傾いている． 館山ＹＨに着くと，当然のような顔をして下津浦君がいた．彼はＹＨの会員証を忘れたの に気づいたが，当然私か喜田君が持ってきてくれると思ったという．それで白子ＹＨに問 い合わせもしなかったという．喜田君も喜田君で，持ってくると思っているだろうからと， 館山ＹＨの下津浦君に連絡もしなかったという．それで何事もないように処理されてしま った．まったくどちらもどちら．悠然としたものである． ＹＨの窓から太平洋に沈む夕日を見ながら，今日の旅の成功を喜びあった．３人が３人 とも，それぞれ自分のやりかたで１１０ｋｍの道を走った．私も，久しぶりの長い距離の 旅の成功に大変愉快であった． |
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