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旅は，後は別府に降りて行くだけになった．今日の夜，別府の港から船に乗って， 瀬戸内海を帰ろうと思っている．すっかり天気が回復して青空が広がっている．ほんとう に嘘のようだ．私は湯布院の町から別府への峠を登り始めた．この高さ２００ｍ程の峠を 登り切れば，後は下るだけである．時間は午後４時くらいになっていた．西に傾いた日を 浴びて，眼下に広がる湯布院の町は輝いていた．すすきの穂が一面に揺れている道を登り きり，町に別れを告げて，峠を下った．ここの標高は９００ｍ，一気に下るのは楽しかっ た．城島高原を下り，右手に鶴見岳を望み，遥か眼下に青い部分が広がった．海だ！熊本 から別府まで１５０ｋｍ，厳しいやまなみハイウエイの道を走り切ったのである． 船は別府の港を出た．宝石箱をひっくり返した様に輝く別府の町が，だんだん小さく なっていく．実にきれいである．結局，厳しい冒険だと思っていたこの旅も，何とか成功 させることが出来た．私は自信を取り戻していた．これなら，まだまだサイクリングの旅 が続けられそうである．そして，今年初めから感じていたもやもやも，少し晴れてきた ような気がしていた．私には結局，今の仕事の中で成果を上げながら，ときどきこうやって 旅をするのがいいのだと感じていた．阿蘇のＹＨで出合ったホフマン君に語ったように， 私は自分の仕事に誇りを持っているのだし，中国に行った白方真紀さんや，リベリアに 行った友達に比べたら派手ではないかもしれないが，それが私の仕事である．今手がけて いる仕事を完成させることに情熱がある限り，私は渋ることはないのではないかと考えた． |
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朝日が登っていた．船は瀬戸内海を進んでおり，朝日に瀬戸大橋が輝いていた．実に 美しい光景だ．船は瀬戸大橋をくぐり，高松に寄港した．ほとんどの乗客が降りてしまい， ここから神戸までの間，ほとんど貸切りの様な状態になった．誰もいない甲板に出て，海 と空を見つめていた．私は，これからも自転車の旅を続けるなら，ぜひやって置かなけれ ばならないことがあるなあと思っていた．それは，学生時代半ば実行し，まだその完成を 見ていない「日本全県自転車走破」のことであった．これは若いうちにやっておかなけれ ば出来ないことだ．あと関東６県と沖縄だけになっていたが，もう自転車にこだわらなく てもいいだろうと考えて，ここ２年ほど忘れていた目標だった．しかしはっきりした目標 を持たなければ，旅は宙に浮いた物になってしまうことを最近感じていた．私にも，若い うちにやって置きたい目標があるとしたら，やはりこれだろうと思った．もう一度，こだ わってみよう，と思いついた．そうだ，これだ．私はここ一年のうつうつとした気持ちが 晴れて行くのを感じた．船は快晴の秋の空の下を，快いスピードで神戸港を目指していた． 旅を終えて帰ってみると，「日本全県自転車走破」の夢への思いは，段々強くなってき た．この阿蘇への旅で自信を回復して，私の心の中に，十年来の夢が復活し始めたのであ る．今の仕事を完成させることと，自転車日本全県走破．それを同時に完成させて行こう というのが，私がたどり着いた目標だったのである．今年はもう冬になる，日本全県走破 に向けて，来年は関東の全県走破を目指す旅をしようと決めて，新たな地図を買ってきて 計画を始めた．気持ちが充実し，私は仕事への情熱も高まって来たのを感じていた． |
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