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先生とひとしきりビールで乾杯したあと，温泉に浸かりに行くことにした．例のダム の見える，「砂湯」である．「三好野」で借りた下駄をカラン，コロンと鳴らしながら 温泉へ，なんといい気分であろうか．けっこう大きなホテルもあるので，温泉街の人通 りは結構多い．ここに住む先生達は，毎日こういう生活が出来るのか． なんともうらやましい． さすがに夜なので，温泉には昼間来たときより人がたくさん入っている．ダムの周り の川の中にも温泉があるようで，湯気が立ち登って，入浴客の裸身を隠している． あんまり野天風呂に慣れていない私には，なんとなく気恥ずかしかった．脱衣所は別れ ているが温泉は混浴なのである！結構若い女性も入っていたりする． （ああ，なぜ私は近眼なのでしょう！残念！）湯に浸かって，ダムの上の山の谷間の空を 見上げれば星のきらめきが見える．湯は三か所あってだんだん熱いお湯に移っていく． 先ほどのビールが効いているので私はたちまちのぼせてしまった．先生は平気な顔だ， さすがは地元の人である．ここは別天地だ．いつか仕事に疲れた時に，また訪れて みようかと思った． |
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町の中を歩いていると，大きな水槽があって，そこに奇妙な生き物が飼われている． ここでは「はんざき」と呼ばれているオオサンショウウオだ．この辺りの川は水がきれい で，オオサンショウウオが生息している．天然記念物なので特別な許可がいるらしいが， この温泉の名物と言うことで，あちこちで飼われているのである．ぬめっとした偏平な 頭のこの生き物は，大きいものでは２ｍもある．名物とはいえちょっと恐い．水槽の中 でじっとしている奴，手足をさかんに動かす奴． 風呂上がりに観察するのはちょっとヘビーだ． 「なんで，はんざきと言うんですか？」と先生に聞く． 「なんでも生命力が強くて，半分にさいても死なないらしいです．それで，はんざき．」 聞かなければ良かった．そんな恐ろしい実験をした人がいるんだろうか，悪趣味な！ 今夜の夢に出たらどうしようか？ しかし湯原の人々には「はんざき」くんは親しまれているようで，この湯原温泉のお祭り はその名も「はんざき祭り」と言う．もう２，３日するとそのお祭りだそうである． 先生宅に戻り，大きな西瓜を頂いた．好物なのでありがたかった．先生といろいろ話して 過ごした．湯原温泉の夜はふけて行った． 翌朝，８月６日．いい天気である．今日は出校日で，先生は学校に行かなければならない． 忙しそうだ．記念撮影をして見送った． 「また来てください．」と先生． 「ええ，何年かしたら，きっと来ます．」 「そのころにはお互い，嫁さんもらっているかもしれませんね」 「じゃあ，新婚旅行で来たらいいんだ．」 本当に，またここを訪れるのはいつの事だろうか．でも，もういちど先生とビールで 乾杯したいものである．きっとそのときも，「はんざき」くん達は水槽のなかでじっと しているのだろうか．先生を見送ったあと，私も先生のお母さんに御礼を言って，湯原 をあとにした．坂を登ってトンネルを抜けると，ダムの上に出て，湯原湖の湖水が広がった． 旅をして，先生に知り合うことがなかったら，私は湯原温泉を知ることも無かった だろう．これからも，素晴らしい旅の出会いを大切にしたい． |
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