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３月１８日．今日はいい天気だ．また船旅をして南を目指そうと思う．それにして も今回はよく船に乗る．天草はもともと海の国だ．こういう旅もまたぜいたくでよい． ＹＨのある高台を下って本渡の港へ．三和商船の水俣行きフェリーに乗るつもりだ． 本渡からは天草の各島への船が出ているのでにぎやかだ．船はすぐに天草下島，上島の 間にある狭い水路，本渡瀬戸に入って行く．本渡瀬戸大橋をくぐり，その次は歩道橋 があるが，この歩道橋が可動橋で，船が通るとふたつに割れた．船が抜けると歩道橋 は元に戻る．見慣れない物なので大変楽しい．水路を抜けるとたくさんの島が浮かんだ 八代海に出た．これで日程の半分が終わった感じだ．後半の南九州への旅が始まった のである．船は御所浦島と獅子島の間を抜けて一路水俣の港を目指す．昨日の寒さが 嘘のような，暖かい船旅だった． クレーンが海底の泥を汲み上げ，その泥で埋め立てをしている様子が印象的な水俣 の港へ着く．今日の暖かい気候では，ここが公害の原点と言われた水俣とは信じられ ないくらいである．しかし泥の汲み上げは，実は水銀に汚染された泥を海底から取り 除く作業である．その汚染の痛手の深さを感じさせる．水俣の町を抜けてさらに南に 走る．国道３号線ではあるが，この辺りでは交通量もごく少ない．しばらく海と山の 風景を楽しみながら行く，いよいよ熊本・鹿児島県境である． 「列島南下，気分上昇．ここから鹿児島県」 という，実に旅心をくすぐる看板が立っている．やっと南の端の県までやってきたんだな あという実感が出来る，すてきな県境であった．鹿児島県出水市，今回４県目の走破で ある．八代海の海が青く広がった． 国道３号線を離れ，米の津川に沿ってしばらく内陸に入り込むと，出水の町である． ここはツルの渡って来る自然の残っている町である．町はさほど大きくはなく，辺り は畑が多いようである．サツマイモでも作っているのであろう．出水の駅前の喫茶店で 昼ご飯を食べて，また走り出す．暖かさと，満腹と，交通量の少なさで，どうも眠気を 感じてしまう．ちっとも進まないが，もうどうでもいいと思う程によい気分であった． 時々町並みがあって，あとは畑というのどかな景色がしばらく続いた． やっと国道３号線に戻って，折口という駅に寄ってみる．なにもない田舎の無人駅 だが，なんだか心温まる感じの駅であった．木造の駅舎の待合室には近所の人が置い たのか，座布団がきれいに並んでいる．「阿久根高校のみなさん，卒業おめでとう」 という張紙があった．そんな時期なのだなあと思いながら，駅と乗客のすてきな関係 について，感心するところ大であった．今月の終わり，国鉄が分割民営化されても， このまま変わらないことを祈るばかりである． |
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小さな踏切で，鹿児島本線を渡れば，向こうは砂浜であった．エメラルドグリーン の実にきれいな砂浜だ．私は自転車を降りて，海岸に歩いて行った．ここはもうその まま天草灘，東シナ海，太平洋の外洋へと続く海岸である．たいへん美しい海岸で， ゴミ一つ落ちていない．遠浅の海岸で，遥か遠くから急に足元まで波が押し寄せてくる． 白い波の重なりを眺めていると，時間と言うものを忘れてしまいそうである．国道に 戻り，さらに走る．眠気醒ましに，ラジオをつけた．すると初めに流れだしたのは， 地震のニュースであった．どうもつい先ほど，私が海を見ていた頃，かなり大きい 地震が九州南部であったらしい．後で知ったことだが，山の方では落石が当たって車 が谷に落ちて死者が出たり，国鉄も止まったりしたくらい大きな地震だった様である． 海を見ている時に津波でもきていたらと，少しぞっとした私だった． |
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阿久根の港を過ぎると，岩場の多い牛の浜の海岸線が続く．ずいぶん遠くまで見通 しのきく，男らしい海岸線が続いている．道の起伏も風景を楽しむのによい位の 緩やかさで，素晴らしく気持ちのよいサイクリングだ．時折みかけるフェニックスの 木が，南国ムードを盛り上げる．その昔，頼山陽が絶賛した海岸の風景だというが， その気持ちもわかる気がした．川内川に沿って内陸に入り，今日の宿泊地，川内を目指す． 川内はかつて薩摩の国の国府があったほど古い町で，町は川内川の両側に広がっている． 地方都市としても結構広い町である．ついこの間の１月９日までは，ここから国鉄の 宮之城線が分岐していたのであるが，廃止になったばかりだ．なんとなく駅前は寂しい 感じがした．これも国鉄分割民営化の布石で，すこしでもお荷物の路線は廃止しよう という動きの一貫である．私は駅前のビジネスホテルに泊まって一夜を過ごした． 何日もＹＨを泊まり歩くと，どうも落ちつかないなあと思うこともあるので， たまに一人切りになるのもオツなものである．夜は町に出て，食事をした． |
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