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新潟県に入ってもあいかわらずの山の中．人家は一件もない．道の真ん中にニホンザル の死骸があった．車にひかれたのだろう，なんだかぞっとした．入広瀬の集落に入って やっとポツリポツリと人家が見られる．日本海に注ぐ信濃川の支流，破間川に沿って今度 は下り，守門村，広神村を抜けて小出町に出た．小出は国道１７号線，上越線，上越新幹 線の走る交通の要衝である．やっと山から降りてきて，ほっとした． 私は駅前の食堂に入ってお昼にすることにした．チャーハンを運んで来たおばさんが， 「自転車で旅行されているのですか」と聞いてきた． 「ええ，北海道の室蘭から，約１０００ｋｍ，東北をずっと南下してきたんです．」 そう，１０００ｋｍも走ってきたのである．よくやれたものだ．自分のやったことの大 きさに驚いてしまう．すると，何を思ったのか，おばさんが， 「やっぱり，北の方が高いから，北から南だと，下りだから楽なのかね？」と言った． 一瞬，何の事かわからなかったが，どうもおばさんは，地図では北が上なので，標高も 北の方が高いと思ったらしい． 「そりゃあ，とんでもない勘違いですよ」と答えた． しかし，そんな風に考えることが出来るなんてとてもユニークだと思った．そして， 自分の走った道なんて大したことはないのかも知れないと思ったら，なんだか愉快になった． 食堂を出ると，越えてきた「みちのく」の山々が青空の下に横たわっていた． 私の東北の旅は終わりに近づいていていたが，このころ東北を目指して走っていた男 がもう一人いた．我がサイクリング友達，川合賢一君である．彼は会社が休みになると， その日の夜，夜行列車に乗って東北を目指していたのである．彼もまた，今年は長野県 より北を走ってみたいと思い立ち，私が東北を走っていることもあって旅立ったのである． 南東北ワイド周遊券を利用した輪行の旅であった． ８月１２日の朝，長野県黒姫から走り出し，十日町，長岡と走り輪行．その日は新潟駅 で野宿．１３日は特急べにばなで山形県上山までいき，私が行けなかった蔵王へ登る．私が 小出の町にいたころ，川合賢一君は蔵王の山を登っていたことになる．そんな事とは知ら なかった．彼はその日は蔵王の峨々温泉に泊まり，１４日，私も走った笹谷峠を通って山形 へ．輪行して仙台を経て郡山へ．郡山駅で野宿して，１５日には猪苗代駅まで輪行．猪苗代 から磐梯，喜多方，会津若松と走った．若松から只見まで輪行して只見駅野宿． そして１６日，いま私が越えてきた六十里峠を越えて，小出を通過，越後川口駅から帰って いる．いやはや川合君らしく野宿の嵐であるが，さすがにパワーを感じる．限られた時間の 中で，よくここまで走った物だと感心する．私の旅の後半部分のハイライトの様な旅で， 天候その他は違っていたが，同じ場所を走ると言う経験が出来た．すれ違いの旅にはなった が，これもまたおもしろい事になった．彼もサイクリングの旅には熱い男だ．帰ってから お互いの旅の話をするとき，大いに盛り上がった物だ． さて，私の旅は８月１３日の小出に戻る．もう明日が最終日なのでいらないものは 全部送り返そうと，日通の事務所に行った．どこでも，駅前にはたいてい日通の事務所 はあるので便利なものだ．着替えなど全部詰め込んだら，１０ｋｇは軽くなった．自転車 の旅に興味を持った事務所の人はいろいろ聞いてきたので話をしていたら，冷えたスイカ が出てきてしまって恐縮した．後は今日の宿，六日町ＹＨまで走るばかりだ．魚野川に 沿うこの谷はたいへん広く，私は長野県の伊那谷に似ているなと思いながら走っていた． 上越新幹線の線路がたいへん立派である．しばらく走ると上越新幹線の浦佐駅である． 巨大な駅の前には，あの田中角栄氏の銅像が立っている．六十里峠の記念碑を思い出す． ここでは彼は英雄なのであろう． さらに走って六日町へ．冬に雪を溶かす為のスプリンクラーで，今日は道路に水をまい て涼を取っている．夏も使えるとは知らなかった．六日町は豪雪地帯で，町にもひさしの 長いアーケード，雁木が続いている．この先上越線に沿って行けば，スキーのメッカ， 越後湯沢だが，私はこの六日町の町から外れて六日町ＹＨを目指す．町から少し魚沼丘陵 の方に登ることになる．六日町のＹＨはスキーが中心のＹＨなので，夏のこの時期は閑散 としていた．ゲレンデになるはずの原っぱにぽつんと立っている感じだ．ホステラーは ４人だけ．しかし設備は立派で，収容人数も全国１，２を争っている．夜のミーティング では，大型のプロジェクトテレビで，ロッキー４のビデオを見せて貰った．得をした気分 だった．これが旅の最後の夜になる．よく眠っておこうと思う．明日はいよいよ終着点， 長野県飯山市，そして輪行をして名古屋に帰る日である． |
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