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雨がパラつき始めた．これから十和田湖のカルデラを出るために，また外周まで 登らなければならない，発荷峠である．峠の入口の土産物屋さんでアイスクリーム を買って，食べながら雨間を待つ．土産物屋のおばあさんとこ一時間くらい話して いたらやっと止んだので，登り始める．やはり標高は７００ｍ位なので，３００ｍ 登ったことになる．発荷峠の展望台で十和田湖に別れを告げて，私はさらに南下する． 今日の宿，黒森荘ＹＨはここから２０ｋｍほど下った大湯温泉という温泉郷にある． 後は下りばかりなので，どうということもなく，快適に走って，午後４時．大湯川 沿いにあるＹＨに着いた．ＹＨに着くと，また雨が降り出した．ＴＶのニュースに よると，どうやら西日本にあった台風は，コースを北に変えて，東北地方に向かって 来たらしいのだ．これは驚きである．明日からの旅が思いやられる．今日キャンプする 平林君は大丈夫なのだろうか． ＹＨのすぐ裏は大湯川の河原で，年輩のホステラーの人が釣り糸を垂れている． なんでもヤマメが取れるのだそうだ．豊かな自然である．ここの温泉は湯量が豊富で， 一日中流しっぱなしなので，いつでも浸かれる．私はさっそく湯船に入った．まだ 他のホステラーは到着していないので，広い湯船を独占だ．旅の疲れも一気に取れる と言うものである．そんな素晴らしいＹＨなのだが，この辺鄙な場所のため，そんな にホステラーは多くない． ＹＨは，この頃相次いで閉館になっているから，ここも 心配である．いつまでもこのままであって欲しい．（１９９１年現在，黒森荘はまだ あるが，この前の日に泊まった青森のうとうＹＨや函館の北星荘ＹＨは，すでにない．） 夜になって，風がごうごうと強くなってきた．窓に当たる雨も強くなった．台風が 本当に東北地方に向かって北上しているようである．しかし台風と言うもの，過ぎ去って しまえばからっと晴れるはずなので，明日は大丈夫だろうと思って休んだ．しかしあくる ８月５日，朝起きてみるとまったくひどい豪雨である．これは走れる状態ではない． 山梨の山の中や広島の海岸線を，一日中雨に降られて走ったこともある私だが，さすが にこの天気ではどうしようもない．ＹＨの裏の大湯川でさえ，今にも氾濫しそうなほど 水位が上がって，泥流が逆巻いている．川に面しているＹＨ自体が危ないのではないか と思う程であった．ＹＨのペアレントさんも，ここ何年もこんなことは無かったと言う． 東北の人は台風には慣れていない．私は仕方なく，今日泊まる予定だった盛岡ＹＨを キャンセルして，黒森荘ＹＨにもう一日泊まることにした． 考えてみればもう家を出て一週間近くなっており，ゆっくり休んだ事が無いのだ． 今日のような天気のおかげでゆっくり出来るんだからと，北国らしくたくさんの布団 を用意してあるこのＹＨのベットで横になっている．他にも足止めを食らっている サイクリストがいるので，その人たちと話ながら過ごす．宮城のサイクリスト， 後藤誠君は，私と同じＹＨを愛好するサイクリストで，東北北海道の知識は抜群だ． 西日本に強い私と情報交換して，お互い有意義だった．栃木のサイクリストの人は， 公務員．休みを利用して彼女と二人で２週間もの長いサイクリングをしているという， 大変うらやましいカップルであった．その他，たくさんの印象的な仲間がいたので， 雨で足止めも退屈では無かった． お昼ごろ少し小降りになってきたので，私は洗濯をしようと思い立ち，町へ出かける ことにした．傘を差し，背には洗濯物の入ったディバッグを背負った．考えてみると旅 に出てからまだ一度も洗濯をしていないのである．そろそろ限界だ．この雨の中洗濯する にはコインランドリーで乾燥器を使うしかないが，なにぶん田舎の事，この辺りには そんなものはありそうにない．それで地図を広げて近くの町を捜して，私は花輪の町に 行ってみることにした．国鉄バスの大湯温泉の停留場から乗れば，バス一本で行ける． バスは雨の中を行く．わざわざ山の上を走って行く路線のようだ．人もそんなに乗っ ていない．概して国鉄バスはこう言う所を走っているのが多い．山の上に出ると，なに やら立て札が立っている所がある．「環状列石」とある．縄文時代後期の遺跡で，いわ ゆるストーンヘンジと呼ばれる物で，石を環状に置いた遺跡である．それが何だったの かは解明されておらず，謎の多い遺跡だ．しかしこの雨の降る中そんなものを見に行く 人がいるわけもなく，バスはその停留所を通過して行った．予想よりも長くかかって， ４０分程でバスは陸中花輪の駅に着いた．かつて尾去沢（おさりざわ）鉱山で栄えた町 である．駅には２日後に迫った花輪ねぷたのお祭りの飾り付けが行われていた． うろうろしてみたが，それほど大きな町ではないので程なく一周してしまい，コイン ランドリーは見つからなかった．仕方なく私は洗濯物の入ったディバックを背負ったまま ＹＨに帰ることになった．まあ，北海道の大沼公園で亡くしてしまった帽子の替わりを 買うことは出来たので，無駄足にはならなかった．ＹＨに帰って，また温泉に浸かった． ８月６日，今日こそは晴れるだろうと言う期待を見事に裏切った曇天であった．まだ 雨が降るかも知れない．台風は東北地方で速度を落として弱まりつつあるが，そのため に天気の回復は遅れそうだと言うのである．しかし昨日に比べれば，だいぶましな天気 なので，私は出発する事にした． |
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