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さて，これで大学生活の中でやって置かなければならないことは終った．後は２５日 の卒業式をまつばかりである．私は久しぶりの解放感のなかで，またサイクリングの旅 に出ようと思っていた．いわゆる卒業旅行である．今の学生は海外へ卒業旅行に行く人 が多いが，私のこのときの卒業旅行はこれで一回きりの旅ではなく，大学院生の２年間 の今後の旅行計画を考えた，その前哨戦としての位置付で行おうと考えていたのである． このころ，私の中にある遠大な計画が固まりつつあったのである． 私は昨年の夏まで，友人川合君との張合いのなかでサイクリングの世界を進めてきた が，そのことも，昨年の四国へのサイクリングをしたあとは，なんとなく今後の目標が 無くなっていた．川合君の方はもうすいぶん前に就職し，サイクリングのやり方も峠道， 林道などを走る事に重点を置くように変わってきた．今年は２人で輪行を始めたが， それも時間に制限されるなかでサイクリングを続けるためのノウハウを得るのが， 川合君の目的であったようだ．私には，輪行で遠くに出かけられるようになって，また さらにサイクリングで遠くに行ってみたいという気持ちがよみがえり始めていた． そのためには新たな目標が必要だ．大学院に進学することになって，私にはまだ２年間 の学生生活の時間があることになった．学問も，サイクリングの旅も大きく膨らませて行 きたい．そう感じていた．それで私は，このとき初めて「日本全県自転車走破」を目標に する事に決めたのである．すでに私は日本の約半分にあたる２１の府県を走破している． 残りは北海道，東北，関東，山陰，九州，沖縄と，遠いところばかりだが，それも今年試 した輪行を使えば，機動力もアップするので，夢ではないと思う．前回走ったことのある ところまで輪行し，そこから走れば無駄な所を走らなくても良いし，行き着いたところか ら輪行で帰れば，長い道のりを家まで走って帰ってくる必要はないから，単純に２倍の 距離を稼げるはずだ．あれこれと自分でルールを決めて，そのやり方で日本全県走破を 達成してやろうと考え始めたら，ぜひ実行したいと思うようになった．この目標は， 既に川合君のサイクリングの傾向とはあきらかに異なったものになっており，このころ から２人のサイクリングへの取り組み方は別れて行った．しかしそれはそれで自分の道を 極めようとしているのであって，やはりお互い旅の良き理解者であったことには変わり はなかった． では，どうやって２年間で日本全県走破をするか．私はとりあえず，北海道は広すぎ るので少しだけ走ることにして，東北走破と合わせた形での「北へのサイクリング」， 九州全県走破のための「南へのサイクリング」の２つを計画した．その他については， この２つのサイクリングに比べれば，短時間で行えるはずなので，この２つの旅の合間 に織り込んで，沖縄，山陰，関東の旅を行おうという方針を立てた．日本地図とにらめ っこする日が続いた．大きな日本列島の白地図を買ってきて，いままで走った所を書き 込んだりしたのもこの時期の事である．電気回路を設計するときよろしく，いろいろな コースが頭のなかでからみあって，だんだんまとまって行く．楽しい作業であった． |
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そういう中で，私の大学卒業旅行の計画が決って行った．将来の九州へのサイクリング を考えると，今の私の走ったことのある西の端の町は広島県尾道市で，そこから九州の 入口まではまだずいぶん距離がある．九州の旅の時は，旅のまとまりを考えると，九州 だけを走りたい．そうなればその前に九州の入口までは走っておきたい．それに九州の 旅の時は，きっと西側の県，佐賀，長崎，熊本を走ることになりそうなので，東側の 大分県の走破はなかなか同じ時には難しいだろうと思われる．それで，今回の旅は ”九州への足がかりのための旅”とする事にして，大分県，福岡県，山口県の走破を 目指すことにした．日程は卒業式の前日までの１週間しかない．さあ，旅に出よう． |
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