私の自転車日本全県走破 第6章(1)

愛車との別れ


 1985年4月2日.私は久しぶりに自転車に乗り南に向かって走っていた.
私は昨年の夏四国や信州に行ったあとは,あまり自転車に乗ることも無かった.
というのは,私の自転車,ミヤタルマンツーリスムがフレームが折れると言う致命的
な破損をしてしまったので,危険でほとんど遠くには乗って行かれなくなっていた
からであった.それならまた新しい自転車を買えばいいと思うのだが,6年も乗り続
けた自転車に愛着があったので,なんとなくそうするのは気が進ま無かった.しかし,
さすがに春になって,自転車がないと不便になってきたので,新しい自転車を買うこと
にした.それでこの日は,いままで6年間乗り続けた我が愛車のお別れサイクリングだ.

 知多半島を先端の師崎まで走り,名鉄フェリーで篠島に渡った.フレームが折れてい
るとはいえなんとか走ることは出来た.篠島は三河湾に浮かぶ小さな島で,チリメン
ジャコの漁獲量が多いことで知られている.夏は海水浴場としてもにぎわう.港に降り
立ち,寄り添うように立つ民家と民家の間の小さな路地を抜けると,すぐに向こう側
の砂浜に出た.春の暖かい風が三河湾から吹いてくる.さすがにシーズンをはずれて
いるので,人陰はほとんどない.島を一周してみようと歩き出す.ちゃんとした道が
ずっと有るわけではなくて,けもの道のような所を歩き,海岸の岩場におっこちそう
になりながら進んで行く.この回りにはいくつかの無人島が有り,それが波に洗われる
様子がなかなか良い.向こうには神島も見える.熊笹の生い茂る道をわけ行って,
やっと開けたところに出る.入り江の向こうに,島の分校が見えた.

 そんなサイクリングをしてから,私は新しい自転車を選びに行った.実を言うと,
あまりこれ以上大きな旅は出来ないなあと感じていた.そもそも私のこれまでの
サイクリングは,友人川合君への対抗意識から来ていた所があって,昨年の夏でだいたい
走った範囲が2人とも同じになってしまったので,張合いがなくなってしまった.
もちろんさらに遠くに行ってみたいとは思っていたのだが,実際これまでと同じ様な計画
の仕方では,行程が長くなりすぎてどうもうまく実行出来そうになかった.そんなわけで
今度の自転車はあまり旅行用にがっちりしたものではなくて,普段乗ることを重点にして
買うことにした.結局,すこしきゃしゃな,ブリジストンのユーラシアツーリスムにした.
値段は7万円弱.


 新しい自転車を買うとさすがに走ってみたくなり,ちょうどゴールデンウイークにも
なったので,あちこち出かけた.三河湾の西浦温泉の辺りを走って海を楽しんだり,
岐阜県の明智町まで走り,峠の感触もつかんだ.私の住んでいる愛知県は,少し町を離れ
れば,それなりに海も山も楽しめる所だ.5月の太陽は紫外線がたいへん強い.
私はサイクリング用の手袋をして走るので,手に妙なまだらの日焼けの跡が出来てしまう.
真っ黒になりながらあちこち走って,新しい自転車に慣れた.でも,もうそんな大きな
サイクリングをしようという気持ちはあまり無かった.古い方の自転車は,そのうち
団地の廃品回収の時に出してしまった.名残惜しかったが,仕方がないだろう.
長い間,本当に有難うという気持ちで見送った.

自転車全県走破のページへ